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14日超のヒト胚体外培養の是非、体外/顕微授精経験者の意思調査-東大医科研ほか

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2024年10月09日 AM09:30

「14日を超えた体外培養」、2021年にISSCRのGLの禁止項目から外す

東京大学医科学研究所は9月20日、・顕微授精経験者22人に対して、ヒト胚の14日を超える体外培養についてどのように捉えているかについてフォーカス・グループ・インタビューを行い、その内容を明らかにした。この研究は、同研究所附属ヒトゲノム解析センター公共政策研究分野の木矢幸孝特任研究員、渡部沙織特任研究員、武藤香織教授、早稲田大学法学部の原田香菜講師、理化学研究所生命医科学研究センターの由井秀樹研究員、藤田医科大学橋渡し研究支援人材統合教育・育成センターの八代嘉美教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Regenerative Therapy」オンライン版に掲載されている。

1980年代にヒト胚の受精後14日以降もしくは原始線条の形成以降の体外培養を禁止する、「」が確立し、国際的に広がった。また、当時から近年まで、ヒト胚の14日を超える体外培養は技術的に不可能だった。しかし、2016年以降、14日を超える体外培養が技術的に可能になりつつあることが海外の研究で示唆されている。ヒト胚培養の進歩と、このような研究が人間の健康と福祉を増進する有益な知見をもたらす可能性を踏まえ、2021年5月、(International Society for Stem Cell Research:ISSCR)は「幹細胞研究・臨床応用に関するガイドライン」を改訂し、14日を超えた体外培養を禁止項目から外している。

ただし、ISSCRは、無条件に緩和したのではなく、「各国の科学アカデミー、学会、研究助成機関、規制当局に対し、このような研究を許可することによる科学的意義と社会的・倫理的課題について社会との議論 (public conversations) をリードするよう求める。国や地域の法域内で社会から広範な支持が得られ、政策や規制によって容認されるならば、専門的な科学的・倫理的監視プロセスによって、科学的目的に照らし、14日を超えて培養することが必要かつ正当性を有するかどうかを検討し得る」と慎重な姿勢を示している。

ヒト胚の提供者である体外受精・顕微授精経験者22人にグループインタビューを実施

研究グループはこれまでに、「社会との議論」を進めるために、ヒト胚研究の進展に関する人々の態度に着目し、2023年にヒト胚の14日を超える体外培養に関する一般市民と研究者を対象にした量的調査の結果を公表している。しかし、ヒト胚研究の大切なステークホルダーであり、研究用にヒト胚の提供を依頼されうる体外受精・顕微授精経験者が、ヒト胚の14日を超える体外培養をどのように捉えているかは、これまで明らかになっていなかった。

今回、日本在住の体外受精・顕微授精経験者22人(女性15人、男性7人)に対して、フォーカス・グループ・インタビューを実施し、ヒト胚の14日を超える体外培養と胚モデルを研究に用いることについて、どのように評価しているか、その理由を含めて尋ねた。インタビューは、2022年10月9日、16日、28日にオンラインで行われた。調査対象者の募集にあたり、特定非営利活動法人Fineの協力を得た。加えて、インタビューの実施にあたり、科学コミュニケーション研究所の協力を得た。

対象者に14日ルールに関する情報を提供した後、ヒト胚の14日を超える体外培養についての評価を聞いた。はじめに、「評価できる」「どちらかというと評価できる」「どちらかというと評価できない」「評価できない」の4段階で評価してもらい、約1時間の討議後、2回目の評価として同様の4段階で評価してもらった。

「不妊治療と医学研究の進展を期待」など肯定的な受け止めの意見あり

その結果、1回目では22人中21人(95.5%)が14日ルールを延長することを肯定的に評価した。約1時間の討論後、2回目の評価では22人中19人(86.4%)が肯定的な態度を維持した。14日ルールの延長に肯定的な評価をする理由として、6つのテーマが特定された。

調査協力者の多くは、不妊治療と医学研究の進展を期待して肯定的に評価していた(テーマ1)。しかし、複数の選択肢の比較に基づく消極的な理由も含まれており、ヒト胚が滅失される予定がある場合、ヒト胚を無駄にしないことを重視する(テーマ2)、研究の進展と停滞を比較した場合に研究の進展には社会的な価値がある(テーマ3)などが挙げられていた。また、14日という区切り方が曖昧ゆえに14日以上の体外培養を認めうる(テーマ4)、科学者を信頼して委ねる必要がある(テーマ5)、ルールが厳しい場合、研究者が暴走することを懸念して、ルールには柔軟性を持たせる必要がある(テーマ6)など、ガバナンスの観点から受容する意見もみられた。

肯定的な評価を下すからといって懸念がないわけではないことも示唆

一方、ヒト胚の14日を超える体外培養については、否定的な評価も下されており、2つのテーマが特定された。再生医療や幹細胞研究の内容理解の難しさ(テーマ7)、胚が発育しなかった自己の経験に基づいた、初期の14日間を対象とした研究の重視(テーマ8)が挙げられていた。

また、胚モデルの研究利用について、22人中16人(72.7%)が肯定的に評価していた。しかし、肯定的な評価をしている人の中でも、胚モデルに対する倫理的な抵抗感や胚モデルを用いた研究結果に対する不信感も語られており、肯定的な評価を下すからといって懸念がないわけではないことが示唆された。

ヒト胚研究のルール策定に向け、政府などに提案

体外受精・顕微授精経験者は、ヒト胚の提供者になりうるだけでなく、将来、再生医療や幹細胞研究の恩恵を受ける可能性もある重要なステークホルダーである。彼ら・彼女らを巻き込んだ、ヒト胚研究のルールの策定に向けて、研究グループは政府や科学者コミュニティに提案を行った。具体的には、「政府および科学コミュニティは、研究についての十分な知識を提供する必要があること」「胚モデルに対する抵抗感や不信感など多様な意見に耳を傾ける必要があること」「体外受精・顕微授精経験者の心理的な安全を確保する環境が必要であること」「体外受精・顕微授精経験者の肯定的な意見のみに基づいて14日ルールを早急に延長することは避けなければならない」の4点である。

「ヒト胚の14日を超える体外培養と胚モデルの研究利用に対する認識について、ヒト胚の提供者の立場である日本の体外受精・顕微授精経験者を対象に初めて明らかにした。フォーカス・グループ・インタビュー(質的調査)という方法上の制約から、調査結果の一般化には限界があり、今後は体外受精・顕微授精経験者を対象にした量的調査も必要と考える。また、一般市民と研究者を対象にした量的調査の結果と、体外受精・顕微授精経験者と何が共通で何か異なるのという点も今後検討が必要だと考えている」と、研究グループは述べている。

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