より効果的で侵襲少ない治療法確立が求められる口腔がん
横浜市立大学は10月1日、カルシウム結合タンパク質ファミリーに属し、カルモジュリン様タンパク質の一種であるCALML6(Calmodulin Like 6)が、口腔がん細胞の遊走に関与することを発見したと発表した。この研究は、同大医学部循環制御医学の梅村将就准教授、石川聡一郎医師、永迫茜助手らの研究グループによるもの。研究成果は、「Communication Biology」に掲載されている。
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口腔がんは、頭頸部で最もよく見られる悪性腫瘍の一つ。近年の著しい治療の進歩にも関わらず、予後は依然として悪く、米国での5年生存率は約50%と言われている。さらに、がん細胞の遊走により引き起こされる頸部リンパ節転移の有無は、重要な予後因子だ。手術を含む現在の治療法では、審美性や機能面での障害を引き起こすため、より効果的で侵襲の少ない治療法の確立が求められている。
プロスタグランディンE2受容体EP4が口腔がん細胞遊走を制御、メカニズムは?
同研究グループは以前に、プロスタグランディンE2受容体の一つであるEP4が、細胞内カルシウムシグナルを介して口腔がん細胞の遊走を制御することを、世界に先駆けて報告した。しかし、カルシウムシグナルがどのようにして細胞遊走を制御しているかの詳細は明らかではなかった。そのため、さらなるメカニズムの解明を目的として研究を行った。
口腔がん細胞遊走にCALML6の関係を示唆
研究グループはまず、口腔がん細胞にEP4受容体作用薬(アゴニスト)で刺激し、RNAシークエンスを用いて網羅的解析を行った。その結果、EP4を刺激することで、カルシウム関連タンパク質の一つCALML6の発現量が大きく増えることわかった。CALML6は正常細胞と比べて口腔がん細胞での発現が高く、EP4刺激で促進される細胞遊走能は、CALML6を刺激することにより抑制した。このことから、口腔がん細胞の遊走にはCALML6が関係していることが示唆された。
ミトコンドリア生合成、口腔がん細胞遊走メカニズムに関与
次に、EP4刺激により促進される細胞遊走のメカニズムとして、ミトコンドリアに注目。細胞遊走にはミトコンドリアで産生するATPがエネルギー源として関与していることが挙げられる。口腔がん細胞をEP4刺激することで、細胞内のエネルギーセンサーの一つとして知られるAMP-activated protein kinase(AMPK)のリン酸化が増加。さらに、AMPKは下流のミトコンドリア関連遺伝子を増加させ、エネルギー産生および活性酸素を増加した。EP4がミトコンドリア生合成を調節するというメカニズムは、他のがんや正常細胞でも報告がなく、今後の口腔がんの新たな治療ターゲットとなる可能性が示唆された。
口腔がん、ミトコンドリア生合成ターゲットの副作用「少」治療法開発に期待
CALML6については植物での報告はわずかにあるが、哺乳類においてその役割がほとんど未解明だ。今後はさらなる口腔がんの遊走能・転移能のメカニズムの解明を目的とした研究が期待される。また、口腔がんにおいては、ミトコンドリア生合成をターゲットとした副作用の少ない治療法の開発が期待される、と研究グループは述べている。
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・横浜市立大学 プレスリリース