ノンアル飲料の提供が飲酒量に及ぼす影響をAUDITの得点で調べた研究はなかった
筑波大学は10月1日、アルコールテイスト飲料(以下、ノンアル飲料)の提供における飲酒量減少について、アルコール使用障害同定テスト(AUDIT)で評価される問題飲酒の程度によって減酒効果に違いがあることを確認し、飲酒の問題が大きいとノンアル飲料提供による減酒効果が抑制されることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大医学医療系/健幸ライフスタイル開発研究センターの吉本尚准教授と同大体育系/健幸ライフスタイル開発研究センターの土橋祥平助教らの研究グループによるもの。研究成果は、「BMC Medicine」に掲載されている。
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AUDITはアルコール消費パターンを評価し、潜在的なアルコール関連問題を特定するためのスクリーニングツール。得点が高い人は、身体的・精神的な健康問題や社会的・職業的な機能障害、事故や怪我などのリスクが増大する。また一般的に、AUDITの得点が高いほど飲酒行動を改善することが難しいことが知られており、得点の違いにより飲酒行動を改善する効果的な戦略を検討する必要がある。
これまで世界で議論されてきた対策の一つに、ノンアル飲料の利用がある。研究グループは最近、アルコール依存症の患者などを除いた20歳以上の成人対象に、ノンアル飲料を提供する介入群と対照群の2つの群に無作為に分けて、純アルコール摂取量(以下、飲酒量)の推移を観察するランダム化比較試験を実施した。その結果、介入開始前からの飲酒量減少率は介入群が対照群よりも有意に上回っており、ノンアル飲料の提供が飲酒量を減らす対策として有効であることが科学的に実証された。
一方で、ノンアル飲料の提供はアルコール使用障害のある人の飲酒欲求を高めることが指摘されている。したがって、AUDITの得点が高い人は飲酒したい気持ちが高まり、ノンアル飲料提供の飲酒量減少効果が抑制されたり飲酒量が増加する可能性が想定される。しかし、ノンアル飲料の提供が飲酒量に及ぼす影響について、AUDITの得点で判断される飲酒問題の大きさの観点で検討した研究はこれまで存在しなかった。
男女123人の参加者を「ノンアル無料提供群」と「対照群」に分けて比較検証
研究は、ノンアル飲料の提供が飲酒量減少に寄与することを報告したランダム化比較試験の二次解析として実施した。アルコール依存症患者、妊娠中や授乳中の人、過去に肝臓の病気と言われた人を除いた20歳以上で、週に4回以上飲酒し、その日の飲酒量が男性で純アルコール40g以上、女性で同20g以上、ノンアル飲料の使用が月1回以下の参加者を募集し、計123人(女性69人、男性54人)に参加を依頼した。参加者はノンアル飲料を提供する介入群と対照群の2つの群に無作為に分けられた。介入群には12週間にわたって、4週間に1回(計3回)、ノンアル飲料を無料で提供した。両群ともアルコール飲料の入手および飲酒に関しては特に制限をすることはなく、自由に日々を過ごすよう指示し、介入から20週間、毎日、アルコール飲料とノンアル飲料の摂取量を記録した。同研究では日本人を対象にした先行研究を元に、AUDIT 7点以下、8~11点、12~14点、15点以上の4グループに分類した上で、同一AUDITグループで対照群と介入群の飲酒量や飲酒頻度の比較と、介入中の飲酒量の平均変化率(飲酒量の介入開始前からの変化率)を4つのAUDITグループ間で比較した。
AUDIT15点以上のグループは、ノンアル飲料介入による有意な飲酒量の変化認められず
介入開始前からの飲酒量減少率は、AUDIT得点が14点以下のグループでは、介入群が対照群を上回っていたが、15点以上のグループでは介入による有意な飲酒量の変化は認められなかった。また介入期間中のノンアル飲料消費量にAUDIT得点による違いは認められなかったものの、飲酒量の減少率はAUDIT得点が7点以下のグループと比較して、12~14点および15点以上のグループでは有意に抑制されることが明らかとなった。
どのグループもノンアル飲料の提供で、飲酒量増大せず
飲酒頻度や飲酒日あたりの飲酒量に着目したところ、AUDIT得点が7点以下および8~11点のグループでは飲酒頻度が減少し、AUDIT得点が12~14点のグループでは飲酒頻度は減少しない代わりに飲酒日あたりの飲酒量が減少することが確認され、飲酒問題の大きさに応じて減酒プロセスが変化する可能性が明らかとなった。AUDIT得点が15点以上になると、飲酒頻度だけでなく飲酒日当たりの飲酒量の減少も生じないため、結果としてノンアル飲料の提供による減酒効果が抑制されてしまう可能性が示唆された。一方で、いずれのグループでもノンアル飲料の提供により飲酒量は増大しなかったとしている。
飲酒問題が大きい人にはカウンセリングなど他のアプローチと組み合わせることが必要
今回の研究により、AUDIT得点14点以下ではノンアル飲料摂取量の増加に連動して飲酒量の減少が生じる「置き換え効果」が確認されたが、AUDIT得点15点以上ではノンアル飲料の消費量が増大しても減酒効果が認められないという「置き換え抵抗性」が生じる可能性が示唆された。また、飲酒頻度や飲酒日あたりの飲酒量の変化を検討したところ、AUDIT得点が比較的低い人は飲酒頻度が変化し、得点が高まると飲酒頻度を減少させずに、飲酒日の飲酒量を減らすことで減酒を達成するような飲酒行動の変化が生じることが観察された。さらに、AUDIT得点が高くなると、飲酒日の飲酒量をも減らすことができなくなり、結果としてノンアル飲料を提供しても減酒できなくなった可能性が示唆された。
研究グループのこれまでの検討から、ノンアル飲料の提供は男女問わず飲酒量低減のきっかけになる可能性があることを示してきたが、飲酒問題が大きい人には医療従事者による動機付け面接や認知行動療法を含む対面式のカウンセリング介入や、電子機器を用いた情報提供やアドバイスなどの異なるアプローチを講じていく必要があることが示唆された。しかし、同研究でノンアル飲料の提供が飲酒量を増大させるなどの悪影響については観察されなかったことから、過剰飲酒対策の最初の一手としてノンアル飲料を用いた減酒戦略は有効である可能性がある。一方で、同研究はランダム化比較試験の二次解析として実施されたことから、AUDIT得点で分類した各グループの標本数が比較的少なかった点は限界点として挙げられる。
「今後は、研究対象者数を増やした上でノンアル飲料提供による有効性・安全性の検証を進めていくことが期待される。また、今回対象に含まれなかった20歳未満の人やアルコール依存症の人への影響についても考慮する必要がある」と、研究グループは述べている。
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・筑波大学 プレスリリース