悪性度の高いHBV感染による肝がん、既往感染が肝がん病態に与える影響は未解明
北海道大学病院は10月1日、B型肝炎ウイルス(HBV)既往感染を有する肝がん患者において、高感度HBs抗原陽性が患者の予後不良と関連することを発見したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究院消化器内科学教室の保浦直弘医員、須田剛生講師、大原正嗣特任助教、坂本直哉教授、同院消化器外科学教室Iの武冨紹信教授、国立研究開発法人国立国際医療研究センター、JCHO北海道病院らの研究グループによるもの。研究成果は、「Alimentary Pharmacology & Therapeutics」にオンライン掲載されている。
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肝がんは世界で罹患者数、死亡者数の多いがんの1つであり、B型肝炎を含むさまざまな慢性の肝疾患患者において好発することが知られている。また、肝がんは肝疾患の原因によりがん細胞の性質や薬物療法の有効性が異なる可能性が最近報告されている。
HBV感染者数は世界で約2.5億人おり、既往感染者数はその数倍いると推定されている。最近の肝がんの分子および免疫状態に基づく分類では、HBV感染による肝がんは、悪性度が高く、血管浸潤の割合が高く、肝がんに対する腫瘍マーカーであるAFPの値が高くなることが報告されている。しかしながらHBV既往感染が肝がんの経過や病態に与える影響は十分にわかっていなかった。また、最近になって従来HBVのタンパク質であるHBs抗の測定法に対して、既存の方法では測定が困難な低濃度のHBs抗原を測定可能な高感度HBs抗原が登場した。従来の診断方法で診断されたHBV既往感染の肝がん患者において、この高感度のHBs抗原測定法を用いて測定した際に、どの位の割合で陽性となる肝患者がいるか、予後を含めた病態へ影響するかはわかっていなかった。
HBV既往感染と非既往感染、予後に大きな差異はなし
今回研究グループは、非B型肝炎肝がん患者401人(HBV既往感染患者288人、非HBV既往感染患者113人)の血液検体を用いて高感度HBs抗原を測定し生存解析をした。HBV既往感染患者と非HBV既往感染患者の比較では、予後を含めて大きな差異は認めなかった。
HBV既往感染の11.8%で高感度HBs抗原陽性、陽性例は予後不良と判明
一方で、HBV既往感染の内11.8%で高感度HBs抗原が陽性で、陽性例ではその予後が悪化していることが判明した。この結果は、根治的肝がんの治療が困難なステージでより顕著だった。高感度HBs抗原が陽性の肝がんは、そうでない肝がんと比較して、より進行した肝がんで多く、腫瘍の血管浸潤の割合が高く、血液中のAFPが高値である悪性度の高いと思われる肝がんである割合が高く、B型肝炎由来肝がんと類似のがんの特徴を有していた。さらに肝がんのステージや肝の予備能、AFP値、血管浸潤の有無と独立して肝がんの予後に影響する因子として高感度HBs抗原が同定された。
高感度HBs抗原測定、HBV既往感染肝がんの予後予測と病態把握に有用と期待
今回の検討結果より従来のHBs抗原測定で既往感染と診断されている肝がん患者の中に、高感度HBs抗原陽性例が存在し予後が不良となる可能性があることを念頭に診療する必要がある。
「近年肝がんに対して使用される免疫チェックポイント阻害剤がnonBnonC肝がんに対して治療効果が低下する可能性が報告されているが、高感度HBs抗原陽性例がB型肝炎由来の肝がんの性質を有している可能性から、今後治療効果予測に使用できる可能性も期待される」と、研究グループは述べている。
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・北海道大学病院 プレスリリース