術後の痛みや機能、違和感に関する臨床成績は議論の途上
九州大学は10月1日、同大病院で人工膝関節置換(TKA)の手術を受けた患者を対象に、術前後のレントゲン画像によるCPAK分類の評価および術後のアンケート調査を行い、術後に生まれながらの脚形状(O脚・真っ直ぐ・X脚)が変わらないこと、関節面の非生理的な傾斜(外方)を避けることで、痛み・機能・違和感に関するスコアが従来よりも10%以上も改善することを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学病院整形外科学教室の小西俊己医員(医学系学府博士課程3年)および濵井敏准教授らの膝関節バイオメカニクス研究グループによるもの。研究成果は、「The Bone & Joint Journal」に掲載されている。
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生まれながらの脚の形状は人によって異なり、真っ直ぐな人もいれば、O脚やX脚の人もいる。日本人ではO脚が多いとされている。人工膝関節置換術(TKA)は、20年間後に再手術を行っていない患者の割合が98%と長期生存率が良好な一方で、満足度は約80%程度であり、さらなる改善のために近年さまざまな工夫が行われてきた。従来は膝関節への荷重のバランスをとるために、股関節、膝関節、足関節の中心が一直線に並ぶことを目標とするメカニカルアライメント法が主流だった。近年では術前の脚形状を考慮して、大きく変えないようにすることを目標とするキネマティックアライメント法も行われているが、術後の痛みや機能、違和感に関する臨床成績は議論の途上にある。脚形状の評価は軟骨の摩耗の影響も含めて従来は行われていたが、この評価では生まれながらの脚形状を正確に評価できていなかった。
生まれながらの脚形状を予測するCPAK分類、術後アウトカムに影響するかは不明
2021年にMacDessiらにより提唱されたCoronal Plane Alignment of the Knee(CPAK)分類は、レントゲン画像から計測される値をもとに、生まれながらの脚形状を予測するための分類だ。O脚・真っ直ぐ・X脚のいずれかと、地面に対する関節面の傾きが内方・水平・外方のいずれか、によって、I~IXの表現型に分類される。この分類を用いて、変形性膝関節症になる前の脚形状を推定することで、TKA後の目標として設定することが可能になった。しかし、術前後のCPAK分類が術後の痛みや機能などの患者立脚型アウトカムに及ぼす影響に関しては、これまでに報告がなかった。
単施設・TKA実施の 231人を対象にアンケート調査
研究グループは、2013~2019年の間に同院で変形性膝関節症に対してTKAを行った患者に、術前後のレントゲン画像の評価と、現在の痛みや機能、違和感などを質問するアンケート調査を行った。返信があった231人(284膝関節)の患者を対象として術前・術後のCPAK分類を評価した。患者背景(年齢、性別、BMI、左右、術後経過期間)、機種、術後のCPAK分類および術前後のCPAK分類の変化を因子として多変量解析を行い、これらが痛み・機能、違和感などに及ぼす影響を調査した。
生まれながらの脚形状を維持と、関節面の外方傾斜の回避で、痛み・機能・違和感が改善
この結果、術後に術前と脚形状(O脚・真っ直ぐ・X脚)が変わらないこと、関節面の外方傾斜を避けること、この2つによって日常生活における痛み・機能に関するスコア、違和感に関するスコアがそれぞれ10%以上も良好であることがわかった。
「今回の発見を基に、患者ごとの脚形状に応じた術前計画を立て、ロボット支援技術を用いた正確な手術を行うことで、TKA のさらなる成績向上に役立つことが期待される」と、研究グループは述べている。
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・九州大学 プレスリリース