男性ホルモン投与で引き起こされる骨格筋肥大、作用機序は未解明
愛媛大学は9月30日、男性ホルモン(アンドロゲン)が、骨格筋の間葉系前駆細胞に発現するアンドロゲン受容体(androgen receptor:AR)を介して、骨格筋の量を制御していることを解明したと発表した。この研究は、同大プロテオサイエンスセンター病態生理解析部門・大学院医学系研究科病態生理学講座の酒井大史特任講師、今井祐記教授、九州大学生体防御医学研究所の大川恭行教授、上住聡芳教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America」にオンライン掲載されている。
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アンドロゲンは、男性の第二次性徴の形成を促進する重要な役割に加えて、アナボリックステロイドという別名が示すとおり、タンパク質同化(アナボリック)作用を持っており、男性ホルモンの投与が骨格筋の肥大を引き起こすことが知られている。さらに、男性ホルモンは、ARと呼ばれる受容体と結合することで、骨格筋を含む全身の組織において、遺伝子の発現を調整している。しかしながら、男性ホルモンが、骨格筋のどの細胞を標的とし、どのような作用機序で骨格筋の重量を制御しているのか、不明な点が多く残されていた。
間葉系前駆細胞特異的にAR欠損のオスマウスで、骨格筋重量が減少
研究グループは、骨格筋の維持に重要な間葉系前駆細胞に着目し、男性ホルモン/ARがどのように骨格筋の重量を制御しているかを探索した。まず、蛍光免疫染色により、男性ホルモンの受容体であるARが、骨格筋の間葉系前駆細胞に発現していることを発見した。そこで、間葉系前駆細胞特異的に、ARを欠損させるオスマウス(変異マウス)を作出し、その骨格筋を観察した。その結果、対照マウスと比較して、変異マウスでは、体重の減少、後肢の骨格筋重量が減少した。さらに、男性ホルモンの感受性が高いことで知られている会陰部骨格筋の重量を測定すると、14週齢、6か月齢、28か月齢のマウスにおいて、顕著に重量が減少していた。
ARがIGF1遺伝子上流のアンドロゲン応答配列に結合し発現を制御と判明
この減少の原因をさらに探索するために、対照マウスと変異マウスの会陰部骨格筋から間葉系前駆細胞を採取し、RNAシークエンスを実施した。その結果、変異マウスでは、骨格筋の量を調整するタンパク質であるインスリン様成長因子(IGF1)が減少していた。
さらに、この遺伝子発現変化の原因を探索するために、対照マウスと変異マウスの後肢骨格筋から間葉系前駆細胞を採取し、CUT&RUNを実施した。その結果、ARが、IGF1遺伝子の上流にあるアンドロゲン応答配列(ARE)に結合し、その発現を制御していることが明らかとなった。
変異マウス会陰部骨格筋へのIGF1注射により、骨格筋量の減少を抑制
最後に、間葉系前駆細胞におけるAR欠損によるIGF1の減少が、会陰部骨格筋量の減少の直接的原因になっているかを確認するため、変異マウスの会陰部骨格筋にIGF1を注射した。その結果、生理食塩水を注射された変異マウスと比較して、IGF1を注射された変異マウスの会陰部骨格筋量は減少しなかった。
サルコペニアの治療法開発につながる可能性
以上の結果から、男性ホルモンは、骨格筋の間葉系前駆細胞に発現しているARを介して、IGF1の発現を調整し、骨格筋の重量を制御していることを解明した。「今回の発見により、男性ホルモンとIGF1の適切な組み合わせが、加齢により骨格筋の重量が減少するサルコペニアの新たな治療方法の開発につながる可能性が示唆される」と、研究グループは述べている。
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