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乳児期外傷性脳損傷の新たな病型・TBIRDの臨床像や発症因子を明らかに-女子医大

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2024年10月03日 AM09:20

近年報告されているTBIRD、どのようなTBI患者が発症するのかなど不明点

東京女子医科大学は9月27日、乳児期外傷性脳損傷の新たな病型である「)」 の調査を実施し、その臨床像・発症因子・病態を明らかにしたと発表した。この研究は、同大附属八千代医療センター小児科の高梨潤一教授、神経小児科の安河内悠助教、小俣卓准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of the Neurological Science」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

けいれん重積型(二相性)(AESD)は日本の乳児に好発し、ウイルス感染症に伴うことが多く、小児の急性脳症の中で最も頻度の高い脳症症候群である。発熱当日または翌日にけいれんで発症し、意識障害は一旦改善傾向となるが、4~6日目に再度のけいれんや意識障害の増悪を認め、特徴的な二相性の経過を呈する。頭部MRI検査では、皮質下白質の遅発性拡散能低下(bright tree appearance:BTA)を特徴とする。70%に神経学的後遺症を残す。

近年、乳児外傷性脳損傷(TBI)後にAESDに類似した臨床所見・画像所見を呈する症例が散見されており、infantile traumatic brain injury with a biphasic clinical course and late reduce diffusion(TBIRD)として報告されている。TBIRDの臨床経過・画像所見をまとめた報告は少なく、どのようなTBI患者がTBIRDを発症するかは不明であり、その病態も明らかではなかった。そこで今回研究グループはTBIRDの臨床的・画像的特徴、発症因子、病態を明らかにするため、自施設入院の患者を後方視的に解析した。

単施設のTBI患者21人対象に調査、7人がTBIRD

調査は、診療録を用いた単施設の後方視的検討で、2006年12月〜2022年10月にTBIで同医療センター小児科に入院しMRIを撮影した患者を対象として、TBIRD発症群(TBIRD群)と非TBIRD群にわけて、比較検討した。TBIRDの診断は、1)TBI患者もしくは疑い、2)初期症状はけいれんもしくは意識障害、3)遅発性に拡散強調画像で皮質下白質に高信号(BTA)を認める、を全て満たす場合とした。対象は21人で、そのうち7人がTBIRDに合致した。

二相目の症状としてけいれん・意識障害を3〜5日目に認め、MRIでは2〜9日目にBTA

TBIRD群の7人は、発症年齢は3〜15か月で、受傷機転は50%以上が後方転倒や低い位置からの墜落だった。初発症状はほとんどの症例に意識障害・けいれんを認めた。二相目の症状を認めた症例は7人中4人(うち3人は入院翌日に意識清明)で、他 3人は気管挿管中のため症状を確認することは困難だった。二相目の症状はけいれん・意識障害で、3〜5日目に認めた。MRIでは2〜9日目にBTAを認めた。このように、TBIRDとAESDは臨床的・放射線学的に類似点が多い。TBIRDの予後は7人中6人(86%)が何らかの神経学的後遺症を残しており、そのうち3人(43%)は寝たきりになり、AESDより重篤な神経学的後遺症を残した。死亡者はいなかった。

AESDとの鑑別、硬膜下血腫の有無とBTAの出現部位で可能

TBIRDとAESDは類似点が多く、TBIRDも初期症状で発熱を伴うことがあり、臨床的・放射線学的に鑑別することは時に困難だ。しかし、TBIRDでは硬膜下血腫を合併している症例が多かった一方、研究グループが調査した限りでは、AESDで病初期に硬膜下血腫を合併している症例はなかった。また、AESDではBTAは前頭葉優位で基本的に両側性に認め、TBIRDではBTAは後頭葉優位で左右差(硬膜下血腫の部位に一致)があり得た。硬膜下血腫の有無、BTAの出現部位によって、TBIRDとAESDを鑑別することが可能と考えられた。

重症TBI患者はTBIRDを発症しやすい

TBIRD群と非TBIRD群を比較すると、TBIRD群の方が1)初発症状として30分以上持続するけいれん重積状態、2)CTでmidline shiftや脳実質の低吸収域など脳実質病変、3)初期治療で挿管管理を要する重症例が有意に多いことが判明した。発症年齢や受傷機転、初発症状の意識障害の程度などには有意差はなかった。これらのことから、重症なTBIの患者がTBIRDを発症しやすいと考えられた。

TBIRDの主たる病態は興奮毒性の可能性

MRスペクトロスコピー (MRS) はMRIと同時に検査可能であり、非侵襲的に脳代謝を測定できる検査である。AESDでは、MRSで4〜12日目にグルタミンが一過性に上昇する。これは興奮性神経伝達物質であるグルタミン酸をグルタミンに変換して無毒化する過程を観察している可能性があり、AESDの主病態は興奮毒性であると考えられている。

今回の調査では、TBIRD群7人のうち6人、非TBIRD群14人のうち4人でMRSを実施した。TBIRD群では、3〜29日目にグルタミンの上昇があったが、その後、正常化していた。一方、非TBIRD群では、TBIRD群ほど著明な上昇はなかった。TBIRDのグルタミンの一過性上昇は、AESDのMRS所見と一致しており、興奮毒性がTBIRDの病態に関与している可能性が示された。

TBI初期症状後意識レベルが軽快傾向でも、重症だった場合は注意深い観察が必要

TBIRDは近年提唱された概念であり、乳児期の頭部外傷に由来するこれらの病態は医療関係者の間でもあまり知られていない。「今回の研究成果が国際的な医学雑誌に掲載されたことにより、臨床家の間でTBIRDに対する理解が深まることが期待される。また、TBIRDは二相性臨床経過(初期症状後、遅発性に2回目のけいれん・)を呈し、重篤な神経学的後遺症を残す可能性が高いことが判明した。初期症状後意識レベルが軽快傾向であっても、重症なTBI後はTBIRDを念頭に置き注意深い臨床観察が望まれる。さらに、TBIRDに興奮毒性が関与していることが示唆されたが、今後はサイトカインなど他要因の検討も望まれる。興奮毒性に対する有効な治療法を確立することで、患児の予後改善が期待される」と、研究グループは述べている。

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