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18種の菌を混ぜた腸内細菌カクテル投与で「炎症性腸疾患」改善の可能性-慶大ほか

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2024年10月03日 AM09:00

便移植は使用する便による効果の差・安全性の問題があるため、広く行われていない

慶應義塾大学は9月27日、健常者の腸内常在細菌の中から、腸管内でクレブシエラや大腸菌の抑制に重要な働きをしている18種類の菌を同定し、この18種類の菌を混ぜ合わせて一緒に投与することで、腸管内のクレブシエラや大腸菌を1,000分の1以下に減少させる効果があることをマウス実験で確認したと発表した。この研究は、同大医学部微生物学・免疫学教室の本田賢也教授を中心とする共同研究グループによるもの。研究成果は、「Nature」オンライン版に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

近年、抗菌薬が効かない多剤耐性菌による感染症が世界中で大きな問題となっており、特に多剤耐性菌の重症感染症を引き起こすことが知られているクレブシエラや大腸菌などの菌は、腸内に住み着いて増えることが感染症発症のリスクとなる。また、これらの菌は炎症性腸疾患を悪化させることも知られている。

一方で、腸内には病原菌や耐性菌を抑える「良い菌」も存在する。最近の研究では、便移植という方法を使ってこれらの良い菌を腸に移すことで、クレブシエラや大腸菌を減らすことができると報告されている。しかし、便移植は使用する便によって効果が異なり、安全性の問題もあるため、まだ広く使われる治療法にはなっていない。

そこで研究グループは今回、健康な人の腸内からクレブシエラや大腸菌を排除できる菌を探索した。クレブシエラや大腸菌の耐性菌を保菌している人や、症状が悪化している炎症性腸疾患患者に対して、これらの菌を「腸内細菌カクテル」として混ぜ合わせて投与することで、より効果的で安全な治療法の実現を目指して研究を行った。

・大腸菌を抑制する18種類の菌を同定、モデルマウス投与で腸の炎症が軽度に

まず、菌が全くいない無菌マウスに、口からクレブシエラを投与し腸内に定着させた。その後、健常者の便を投与すると、便中のクレブシエラの菌量は大幅に減少した。さらに、投与した健常者の便の一つから31種類の菌を取り出し、その中で特にクレブシエラを腸内から減少させる働きがある18種類の菌を特定した。これらの菌は、抗菌薬に耐性をもつクレブシエラや大腸菌、さらに炎症性腸疾患患者で炎症を引き起こすような複数の株に対しても、マウスの腸内で減少させる効果が確認された。

さらに、炎症性腸疾患のモデルとして使われるIl10-/-マウスに大腸菌を多く含む炎症性腸疾患患者の便を投与すると、腸内に重度の炎症が起こった。しかし、この18種類の菌を投与すると大腸菌が排除され、腸の炎症も軽度になった。

18種類の菌がグルコン酸を多く消費、クレブシエラのエネルギーを減らし増殖を抑制

また、クレブシエラがマウスの腸管内でよく増えるような環境では、gntRという遺伝子に変異がある株が特によく増えやすいことがわかった。このgntRという遺伝子は、クレブシエラにとって重要なエネルギー源の一つであるグルコン酸の取り込みや代謝を抑える役割を持っている。しかし、このgntRに変異がある株では、グルコン酸を効率的に利用できるため、他の株よりも早く増殖することが可能になる。実際に、クレブシエラがよく増える環境では、マウスの便中にグルコン酸が多く含まれていることも確認された。

一方で、18種類の菌が存在するとgntRに変異がある株が逆に減少し、便中のグルコン酸の量も少ないことがわかった。このことから、18種類の菌がグルコン酸をより多く消費することで、クレブシエラに必要なエネルギー源が減り、その結果、クレブシエラの増殖が抑えられていることが明らかになった。

抗菌薬に頼らず、効果的で安全な新しい治療戦略となることに期待

今回の研究結果から、18種類の菌を混ぜ合わせた「腸内細菌カクテル」をクレブシエラや大腸菌の耐性菌を保菌している人に用いることで、耐性菌による感染症発症予防となる可能性が示された。

「さらに炎症性腸疾患患者に使用することで、クレブシエラや大腸菌により悪化した症状の改善も見込まれる。この治療法は、抗菌薬に頼らず、効果的で安全な新しい治療戦略として期待できる」と、研究グループは述べている。

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