なぜ、大腸に限局して発現している分泌性の脂質分解酵素が肥満に影響を与えるのか?
東京大学は9月25日、大腸に発現している脂質代謝酵素であるX型分泌性ホスホリパーゼA2(sPLA2-X)が、腸内細菌叢の調節を介して全身の代謝に影響を及ぼすことを世界に先駆けて解明したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科の村上誠教授と佐藤弘泰助教、医薬基盤研究所(NIBIO)の國澤純副所長、慶應大学薬学部の有田誠教授らとの共同研究によるもの。研究成果は、「Cell Reports」オンライン版に掲載されている。
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脂肪を多く含む食事(高脂肪食)を過剰に摂取すると肥満になるが、この時に腸内細菌叢の組成も大きく変化する。腸内細菌叢が悪玉菌優位に変わると大腸に慢性的な炎症が生じ、大腸上皮のバリア機能が乱れる結果、遠隔の臓器(例えば脂肪組織や肝臓)にも慢性炎症が広がり、肥満や2型糖尿病が悪化する原因となる。分泌性のリン脂質分解酵素の一つであるsPLA2-Xは大腸の上皮細胞に高発現しているが、それ以外の臓器にはほとんど発現していない。
研究グループは、sPLA2-Xの遺伝子を破壊したマウス(sPLA2-X欠損マウス)に高脂肪食を与えると野生型マウスよりも太りやすいことを見出した。しかし、なぜ大腸に限局して発現している分泌性の脂質分解酵素が肥満に影響を与えるのかは不明だった。
sPLA2-Xがオメガ3脂肪酸を遊離して大腸の炎症を防ぎ肥満を抑制
研究グループがsPLA2-X欠損マウスに高脂肪食を与えると、野生型マウスと比べて肥満が増悪。sPLA2-Xの主要発現部位である大腸では、炎症マーカーの発現が増加していた。sPLA2-Xが大腸の脂質代謝を調節していることを想定し、リピドミクスによってsPLA2-X欠損マウスの大腸の脂質を網羅的に分析したところ、オメガ3脂肪酸が野生型マウスと比べて減少していた。欠損マウスにオメガ3脂肪酸を多く含む餌を与えて飼育すると、太りやすい体質は解消した。
このことから、sPLA2-Xは大腸のリン脂質を分解し、抗炎症性の脂質として知られるオメガ3脂肪酸を遊離することで大腸の炎症を防ぎ、肥満に対して防御的に働くことがわかった。
sPLA2-X欠損マウスが太りやすくなるメカニズムとプロセスを解明
sPLA2-X欠損マウスの肥満増悪の表現型は、野生型マウスと欠損マウスを同じケージ内で飼育して腸内容物(糞便)を相互交換した場合や、抗生物質を与えて体内の微生物を一掃した場合には消失した。この結果は、腸内細菌叢の変容が欠損マウスの肥満の表現型の要因となっていることを示唆している。
そこで、欠損マウスの腸内細菌叢を野生型マウスと比較したところ、クロストリジウム属の一部の細菌が欠損マウスで減少していた。クロストリジウム属の細菌は、食物繊維を代謝して短鎖脂肪酸を産生することが知られている。そのため、糞便および血液中の短鎖脂肪酸を測定したところ、欠損マウスでは野生型マウスと比べて短鎖脂肪酸が減少していた。短鎖脂肪酸には抗炎症作用や代謝改善作用があることから、短鎖脂肪酸を含む飲水を欠損マウスに与えたところ、肥満増悪の表現型は消失した。さらに、オメガ3脂肪酸を与えたマウスの糞便では短鎖脂肪酸が増加していた。
これらのことから、sPLA2-X欠損マウスが太りやすい理由として「sPLA2-Xは大腸においてリン脂質からオメガ3脂肪酸を遊離する」「オメガ3脂肪酸の作用により、腸内細菌叢の中に善玉菌であるクロストリジウム属が増える」「その結果、クロストリジウム属が産生する短鎖脂肪酸の抗炎症・代謝改善作用により、肥満が抑えられる」というメカニズムが明らかになった。sPLA2-X欠損マウスはこのプロセスが破綻するため、太りやすい体質になる。
sPLA2-X欠損マウスが太りやすくなるメカニズムとプロセスを解明
本研究は、大腸に発現している脂質代謝酵素sPLA2-Xが、腸内細菌叢の修飾を介して全身の代謝に二次的な影響を及ぼすことを示しており、腸内細菌叢の重要性を再確認するとともに、分泌性ホスホリパーゼA2の動作原理に関する新しい側面を明らかとしたものだ、と研究グループは述べている。
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