肥大型心筋症、非サルコメア遺伝子変異の重要性は注目されてこなかった
東京大学医学部附属病院は9月26日、国内多施設の肥大型心筋症患者の遺伝子解析を行い、重症化に関わる新たなリスク因子を同定したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科医学博士課程の蛭間貴司氏、同研究科先端循環器医科学講座の井上峻輔特任研究員、野村征太郎特任准教授、小室一成特任教授、同研究科循環器内科学の武田憲彦教授、同大学先端科学技術研究センターゲノムサイエンス&メディシン分野の油谷浩幸シニアリサーチフェロー(東京大学名誉教授)らの研究グループによるもの。研究成果は、「JACC: Heart Failure」に掲載されている。
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肥大型心筋症は、心室筋の肥大を特徴とする心筋疾患で、心不全の代表的な原因疾患の一つである。発症年齢は若年から中高齢までと幅広く、不整脈による突然死・脳梗塞・心臓のポンプ機能の低下による末期心不全への進行など、病状は多岐にわたる。家族歴を有する人が多いことが特徴で、一般人口の約500人に1人と、最も頻度が高い遺伝性心疾患である。心筋を構成する最小単位であるサルコメアを設計する遺伝子の変異が主たる原因で、「サルコメア病」として広く認識されてきた。
しかし、肥大型心筋症患者は、サルコメア遺伝子だけでなく、心臓のさまざまな構造や機能に関連した遺伝子にも変異を認めることがある。その中には、拡張型心筋症や不整脈原性右室心筋症など、他の心筋症の原因となる遺伝子変異も含まれる。一方、「サルコメア病」として認識されてきた肥大型心筋症において、非サルコメア遺伝子が注目されることはなかった。そこで、研究グループは、サルコメア遺伝子だけでなく、さまざまな心筋症に関連した遺伝子を網羅的に解析し、肥大型心筋症の病態形成に関わる遺伝的基盤を調べた。
サルコメア遺伝子変異を有する139人中、11人が他の心筋症関連遺伝子変異も保有
国内多施設で登録された378人の肥大型心筋症患者の血液からDNAを抽出し、サルコメア遺伝子を含む約80種類の心筋症関連遺伝子を解析した。その結果、139人がサルコメア遺伝子変異を有しており、うち11人は拡張型心筋症や不整脈原性右室心筋症など、他の心筋症に関連した遺伝子変異を有していた。
他の心筋症関連変異併存の患者、拡張相肥大型心筋症へ進行しやすく予後不良の傾向
これらの患者は、心臓のポンプ機能が低下しやすく、あらゆる治療が効きにくい末期心不全状態である「拡張相肥大型心筋症」へと進行しやすいことがわかった。さらに、心移植や補助人工心臓植込術の施行率が高いことや、心不全が原因で死亡する危険性が高まることもわかった。
以上のことから、他の心筋症関連遺伝子変異は、サルコメア遺伝子変異と併存することで相加相乗効果を発揮し、肥大型心筋症を重症化させることが明らかとなった。肥大型心筋症の多様性に富む病態形成の機序を解明するために、サルコメア遺伝子のみでなく、心血管疾患に関わる遺伝子を網羅的に解析することの有用性が示された。「今後、肥大型心筋症の遺伝的基盤が明らかになることで、個別化医療・精密医療へ発展していくことが期待される」と、研究グループは述べている。
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・東京大学医学部附属病院 プレスリリース