ミトコンドリア病のリー症候群、有効な治療法は存在しなかった
大阪国際がんセンター(OICI)は9月24日、ミトコンドリアの細胞間移送を利用した新たな治療「ミトコンドリア移植」を開発したと発表した。この研究は、同センター血液内科の横田貴史主任部長、同・中井りつこ特別研究員、施亨韻技術員らと、米国セントルイス・ワシントン大学医学部のJonathan R. Brestoff助教との共同研究によるもの。研究成果は、「Nature Metabolism」にオンライン掲載されている。
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リー(Leigh)症候群とは、ミトコンドリア病の代表的な病気の一つで、ミトコンドリアに必須の遺伝子に異常が起きることで引き起こされ、1万人に1人前後の頻度で発症するまれな病気だ。
リー症候群は小児期に発症し、発達の遅れや、それまでできていたことができなくなる退行、筋力低下、呼吸困難、けいれんなどの重篤な症状が徐々に進行する。生後6か月までに発症した場合は特に重篤な経過を辿ることが多く、発症後数年で死に至ることもある難病だ。今もなお有効な治療法が存在せず、ミトコンドリア病に苦しむ患者のために、現在、世界的に多くの研究が行われている。
モデルマウスへの健康なミトコンドリア移植で神経機能改善、寿命延長
研究グループは、血液・免疫学的な観点から致死的なミトコンドリア病に対する有効な治療法を開発できないかと考え、一般社団法人こいのぼりとリー症候群を研究するためのモデルマウスとして確立されているNdufs4ノックアウトマウスを用いて、この難病の研究に取り組んだ。
まず、健康な野生型マウスの骨髄をミトコンドリア病マウスに移植したところ、ミトコンドリア病マウスの症状が緩和し、寿命が延長することを見出した。
次に、骨髄移植を受けたミトコンドリア病マウスを詳しく調べたところ、全身のさまざまな細胞にドナーマウスの健康なミトコンドリアが移入していることを発見したことから、移植された造血細胞からのミトコンドリア移入(細胞間移送)が、ミトコンドリア病マウスの寿命延長に寄与したのではないかという仮説を導いた。
この仮説をもとに、マウス肝臓細胞から単離・精製された健康なミトコンドリアをミトコンドリア病マウスに移植したところ、ミトコンドリア病マウスの神経機能が改善しただけでなく、エネルギー消費を高め、寿命も延長することがわかった。さらに、こいのぼりから発展したスピンオフベンチャー企業であるルカ・サイエンス株式会社が、独自の手法で精製・作製したバイオ製品であるヒトミトコンドリア(MRC-Q)を用いて、異種間のミトコンドリア移植を行ったところ、マウスのミトコンドリア投与と同様にミトコンドリア病マウスの神経症状が改善し、寿命も改善することがわかった。
当初、横田主任部長の研究グループと米国ワシントン大学のBrestoff助教の研究グループは、それぞれ独自に開発研究を進め、2つの独立した研究室が同様の実験結果を得ていたが、ミトコンドリア製剤の臨床応用を目指すルカ・サイエンスの研究チームを介して共同研究体制を樹立し、各研究室のデータを統合して共同研究成果として発表することになった。
ミトコンドリア病を含む難病に対する治療への応用に期待
今回の研究成果により、骨髄移植および単離ミトコンドリアの移植によって、リー症候群のモデルマウスの全身の細胞でミトコンドリア機能が回復し、神経症状を緩和させ、寿命を延ばすことが示された。
「このことは、複雑な病態であるミトコンドリア病の次世代の治療の提示だけでなく、ミトコンドリアに関した医学・生物学の研究分野に新たな境地を開いたと考えられる。当センター血液内科は、これからも造血細胞移植治療の発展と難病の克服を目指して取り組んでいく」と、研究グループは述べている。
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・大阪国際がんセンター プレスリリース