トラスツズマブデルクステカンの副作用、長引く吐き気に有効な予防薬なし
昭和大学は9月17日、抗精神病薬のオランザピンを用いることで、抗体薬物複合体(Antibody-Drug Conjugate:ADC)トラスツズマブデルクステカンによる遷延する吐き気や嘔吐を予防できることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大先端がん治療研究所の酒井瞳准教授、鶴谷純司教授らの研究グループによるもの。研究成果は、欧州臨床腫瘍学会の学術集会で報告されるとともに、「Annals of Oncology」に掲載されている。
ADCは、抗体に抗がん剤を結合させることで腫瘍細胞により選択的に抗がん剤を届ける新しい治療薬である。結合する抗がん剤の種類や量によっては吐き気が長期間続く場合がある。
トラスツズマブデルクステカンは乳がん、胃がん、肺がんを中心に、さまざまな腫瘍に効果が認められているADCで、今後も処方を受ける患者数の増加が見込まれている。また、この薬剤による頻度の高い副作用に、遷延する吐き気、嘔吐があり、患者を悩ませる。副作用を予防することは、患者の生活の質を守るために極めて重要である。
従来の抗がん剤は点滴後1週間ほどで吐き気は改善することが多く、抗がん剤の点滴前後にステロイド、セロトニン拮抗薬、NK1受容体拮抗薬が予防に用いられてきた。トラスツズマブデルクステカンでもこれらの薬剤は一定の予防効果が期待できるが、1週間を超える吐き気に有効な予防薬は報告がなかった。
168人の乳がん患者を対象に、オランザピン服用で遷延する吐き気予防の効果実証
今回、同大の研究グループが行った臨床試験には、トラスツズマブデルクステカンを受ける168人の乳がん患者が参加し、標準的で予防的な吐き気止めに加えて、オランザピンまたはプラセボのいずれかを点滴から連日6日間、夕食後に服用した。オランザピンを服用した患者では、服用期間のみならず1週間を超えて長期間に渡り遷延する吐き気予防の効果を実証した。
安全性確立しているオランザピン、予防薬として有望
オランザピンはうつ病や統合失調症の患者の症状を和らげる薬剤として臨床で広く用いられており、その安全性は確立している。脳内に存在する複数の受容器に結合し、吐き気を遮断する。「既存の制吐剤との比較試験が今後必要と考えられるが、本研究はトラスツズマブデルクステカンの吐き気・嘔吐予防にオランザピンを用いることの科学的な裏付けを与える世界で初の研究結果だ」と、研究グループは述べている。
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・昭和大学 プレスリリース