医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > 遺伝性大腸がん「リンチ症候群」の進行に腸内細菌が重要な役割を持つと判明-東工大

遺伝性大腸がん「リンチ症候群」の進行に腸内細菌が重要な役割を持つと判明-東工大

読了時間:約 3分15秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2024年09月25日 AM09:30

リンチ症候群患者の腸内細菌は、大腸がん進行にどのように関連している?

東京工業大学は9月12日、(LS)患者の大腸がんと腸内細菌の関連を明らかにしたと発表した。この研究は、同大生命理工学院 生命理工学系の山田拓司准教授、サリム・フェリックス博士後期課程学生(当時)らによる研究グループによるもの。研究成果は、「iScience」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

(CRC)患者は近年増加しつつあり、死因の上位に入る。大腸には多種多様な細菌などの腸内微生物が常在していることが知られており、腸の健康状態に大きな影響を与えていると考えられている。大腸がんにおける腸内細菌の役割は解明されつつあるものの、遺伝性大腸がんにおける腸内細菌の役割についてはまだ十分に理解されていない。

LSは遺伝性大腸がんの種類の一つで、DNAミスマッチ修復(MMR)遺伝子(MLH1、MSH2、PMS2、MSH6)またはEPCAMの病原的な生殖細胞系列変異によって引き起こされる、常染色体優性の家族性疾患であり、大腸がんや子宮内膜がんのリスクが報告されている。しかし、これまでLS患者の腸内細菌が大腸がん進行にどのような役割を果たしているかは、明らかになっていなかった。

LS患者、腸内微生物アルファ多様性「低下」・フィーカリバクテリウム「少」

研究では、LS患者の腸内微生物群および代謝物のプロファイルを、大腸がんの各進行段階で詳細に解析するというアプローチにより、遺伝性大腸がんにおける腸内細菌の役割を解明することを目指した。具体的には、71人の日本人LS患者を対象に、糞便のメタゲノム解析と代謝物解析を行った。LS患者は、アデノーマまたはがんの形成歴がないグループ(LS-CTR)、アデノーマのあるグループ(LS-ADE)、大腸がんのグループ(LS-CRC)、および過去にがん形成による結腸切除を受けたグループに分類した。また、同じサンプリングプロトコルを用いて、LSではない大腸がん患者からもデータを取得した。

その結果、LS患者は非LS患者に比べ、腸内微生物のアルファ多様性の低下が見られた。また、大腸がんの進行度に関わらず、LS患者の腸内細菌にはフィーカリバクテリウム(Faecalibacterium)属の細菌が少ないという傾向が見られた。ただし、アルファ多様性の低さとフィーカリバクテリウムの少なさは、炎症性腸疾患(IBD)に関連していることが報告されており、この結果は、大腸がんの進行と関連しない、非LS患者の腸内環境における炎症性が観察されたとみられる。

LSの大腸がんにおけるフソバクテリウム・ヌクレアタムの増加は大腸がん発生後と判明

LS-CRCグループの患者の腸内からは、フソバクテリウム・ヌクレアタム( nucleatum)とその毒性因子であるfap2が見出され、LS-CTRグループより高い相対存在量が観察された。また、LS-ADEグループのフソバクテリウム・ヌクレアタムがLS-CTRと有意な差を示さないことから、この細菌の増加が大腸がんの発生後に起きたことがわかる。

先行研究の報告から、フソバクテリウム・ヌクレアタムが、特にdMMR/MSI-H型の大腸がん患者の腸内に豊富であり、大腸がんの進行・転移・疾患予後・治療反応に影響を与える可能性が示唆されている。同研究の観察結果からは、LS患者の大腸がんにおけるフソバクテリウム・ヌクレアタムの役割は、主に大腸がん発生後の免疫調整や治療に対する耐性であると予測された。

LS患者の大腸がん、宿主側の早期代謝変動が腸内細菌への選択圧として働く可能性

メタゲノム解析によって、LSの大腸がん患者ではアミノ酸の一種であるリジンとアルギニンの分解に関わる細菌の遺伝子が増加し、そのようなアミノ酸の代謝活動が促進されていると予測された。糞便代謝物データから、これらのアミノ酸の濃度が、大腸がんの進行に関わらず、LS患者に高いことが観察された。がん発生の特徴の一つとして代謝変動が提唱されており、同研究の成果から、LS患者の大腸がんにおいて、宿主側の早期の代謝変動が腸内細菌への選択圧として働いていると仮定できた。

同研究は、LSにおけるCRCの病態形成に関与する要因を多角的に探索するものであり、腸内微生物の構成や代謝物の変化が、特に早期のdMMR遺伝子変異によって誘発される宿主の免疫応答と密接に関連していることを示唆している。さらに、フソバクテリウム・ヌクレアタムなどの特定の微生物種の増加がCRCの進行と関連するという従来の推定が正しいことが裏づけられ、これらの微生物が、腫瘍の成長と病態の進展にどのように寄与するかを理解するための重要な手がかりを提供している。

LS患者の腸内細菌をターゲットとした治療法・代謝変動早期発見の一助となることに期待

今回の研究結果は、LS患者における腸内細菌の役割が大腸(結腸直腸)がんの腫瘍形成において、他の要素よりも重要である可能性を示している。

「本発見は、LS結腸直腸がんの理解を深め、将来的な予防と治療のための新しいアプローチを提供する可能性がある。具体的にはLS患者の腸内細菌をターゲットとした新しい治療法や代謝変動早期発見の一助になることが期待される」と、研究グループは述べている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 心不全の治療薬開発につながる、障害ミトコンドリア分解機構解明-阪大ほか
  • 特発性上葉優位型肺線維症、臨床的特徴などのレビュー論文を発表-浜松医科大
  • 院外心停止、心静止患者は高度心肺蘇生・搬送も社会復帰率「低」-広島大ほか
  • 甲状腺機能亢進症に未知の分子が関与する可能性、新治療の開発に期待-京大
  • 【インフル流行レベルマップ第50週】定点当たり報告数19.06、前週比+9-感染研