免疫チェックポイント阻害剤の「偽増悪」、効果判断の指標が必要
広島大学は9月12日、肝細胞がん患者を対象とした研究でデュルバルマブ+トレメリムマブ併用療法の治療効果判定に腫瘍マーカーが有用であることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大学病院消化器内科の内川慎介助教、河岡友和診療准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Hepatology research」にオンライン掲載されている。
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近年、免疫チェックポイント阻害剤というこれまで肝細胞がんに対して用いられていた薬とは全く違った働きでがんに対する治療効果を発揮する薬剤が使用可能となった。ヒトの体には「免疫」という機能が備わっており、血液中の免疫細胞が体の中に入ってくる細菌やウイルスなどの異物を排除するようにできている。このうち一部の免疫細胞にはがん細胞を攻撃する性質があり、がんの治療に重要な役割を担っている。免疫細胞には、健康な細胞を誤って攻撃してしまわないように、自らの免疫力にブレーキをかける「免疫チェックポイント」という機能が備わっている。がん細胞は「免疫チェックポイント」を利用し、がん細胞への攻撃にブレーキをかけるが、このブレーキを解除し、免疫細胞が正常にがん細胞を攻撃できるようにする薬を「免疫チェックポイント阻害剤」と呼ぶ。しかし免疫チェックポイント阻害剤を用いた治療法では、実際にはがんに対して効果がある(腫瘍が小さくなっている)のにも関わらず、CT、MRIなどの画像評価では腫瘍が大きく見える「偽増悪」という状態を呈することがあり、本当にがんに対して効いているのかがわからない、という問題点がある。そのため、治療が有効かどうかを判断するための目安となるものが求められていた。
肝細胞がんにデュルバルマブ+トレメリムマブ投与の33例、AFPなどの腫瘍マーカー測定
がんになると、がん自体が産生する、もしくはがんに反応して正常細胞から産生される特殊な物質が血液中に現れることがあり、この物質を「腫瘍マーカー」と呼ぶ。研究グループはこの物質の数値の動きを見ることで、CTやMRIでは判断できなかった免疫チェックポイント阻害剤を使用した治療法の効果を測定できるのではないかと考えた。
そこで、2023年4月から2023年12月までに肝細胞がんに対してデュルバルマブ+トレメリムマブという二つの免疫チェックポイント阻害剤を組み合わせた治療を受けた33例について調べた。腫瘍マーカーであるAFP、DCP、AFP L3分画を治療開始前、1週間、4週間、8週間後のタイミングで測定した。また4週間後と、8もしくは12週間後にCT、MRI検査を行いがんがどのように変化したかも確認した。
治療無効例で4週後のDCP上昇、治療効果を見分ける腫瘍マーカー基準値も判明
治療が効果的だった患者では4週後のCT、MRIで腫瘍が大きくなっていても8週後には3つの腫瘍マーカーの値は有意に下がっていた。一方、治療が効果を発揮しなかった患者では4週後にDCPの値が上昇していた。またどれくらい腫瘍マーカーが下がれば、治療が効いているかの指標として、4週後に40%以上の腫瘍マーカーの低下という数値が導き出された。今回の対象症例においては4週後にAFPもしくはDCPが40%以上低下した患者のうち72.2%の患者で良い治療効果を示した。実験の結果、免疫チェックポイント阻害剤を使用した治療に効果があった患者では、CT、MRIでは腫瘍が大きく見えた場合でも、腫瘍マーカーの値が下がっていることが判明した。
体への影響や負担少なく、正確に治療効果を判定できる可能性
今回の研究の結果から免疫チェックポイント阻害剤を使った肝細胞がん治療において腫瘍マーカーがCTやMRIの画像よりもより正確に治療効果を判定できる可能性が示された。「被ばくや造影剤による腎障害のリスクがある画像検査を頻回に行わずとも血液検査で治療効果が判定できるため、より体への影響や負担を少なくすることができるのではないかと考える」と、研究グループは述べている。
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・広島大学 研究成果