アレルギー疾患関与も考えられるフェノール類、妊娠中ばく露の影響は?
熊本大学は9月13日、エコチル調査の3,513人のデータから妊娠中のフェノール類ばく露と子どもの喘息発症の関連について、解析結果を発表した。この研究は、同大南九州・沖縄ユニットセンターの小田政子氏、倉岡将平氏の研究グループによるもの。研究成果は、「Environmental Pollution」に掲載されている。
画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)
子どもの健康と環境に関する全国調査(以下、「エコチル調査」)は、胎児期から小児期にかけての化学物質ばく露が子どもの健康に与える影響を明らかにするために、平成22(2010)年度から全国で約10万組の親子を対象として環境省が開始した、大規模かつ長期にわたる出生コホート調査。臍帯血、血液、尿、母乳、乳歯等の生体試料を採取し保存・分析するとともに、追跡調査を行い、子どもの健康と化学物質等の環境要因との関係を明らかにしている。エコチル調査は、国立環境研究所に研究の中心機関としてコアセンターを、国立成育医療研究センターに医学的支援のためのメディカルサポートセンターを、また、日本の各地域で調査を行うために公募で選定された15の大学等に地域の調査の拠点となるユニットセンターを設置し、環境省と共に各関係機関が協働して実施している。
フェノール類は、芳香族置換基上にヒドロキシ基を持つことを特徴とする有機化合物。フェノール類のアルキル化によって生成される合成有機化合物であるアルキルフェノールは、非イオン性界面活性剤として一般的に使用されている。そのため、アルキルフェノールは洗浄剤、家庭用品、化粧品など多くの製品に含まれている。代表的なものとして、オクチルフェノールや4-ノニルフェノールは、下水処理工程で使用されており、主に土壌や河川堆積物などの水生環境中に存在することがわかっている。また、さまざまな種類の食品や飲料水にも含まれていることが確認されている。4-ノニルフェノールを含む多くのアルキルフェノールは、エストロゲン(女性ホルモン)様作用を持つ内分泌かく乱物質の一つ。そのため、他の環境内分泌撹乱物質と同様に、アルキルフェノールによる人体への健康被害についてもさまざまな議論がなされてきた。フェノール類による人体への影響についてはさまざまな報告があり、近年はアレルギー疾患への関与もあるのではと考えられている。しかし、実際にヒトへの影響を解析した研究は少なく、特に、妊娠中のアルキルフェノールのばく露についても詳しいことはわかっていなかった。
尿中フェノール値と4歳までの喘息発症の関連を解析、3,513組対象
そこで、今回の研究では妊娠中のフェノール類ばく露と子どもの喘息発症の関連について解析を行った。今回の研究では妊娠初期検診時の尿でフェノール類の濃度を測定された母親と4歳時の詳細調査を実施された子どもを対象とし、3,513組について解析を行った。
母親の尿検体から24種のフェノールを測定したところ、フェノールの中でパラベンに分類されているメチルパラベンやエチルパラベン、プロピルパラベンなどが高頻度で検出された。特に、メチルパラベンはほとんどのサンプルで検出されており、測定値も高いことが明らかになった(平均値267.7ng/ml)。一方で、ペンチルパラベンやヘプチルパラベンなどは今回の解析対象者からは一切検出されなかった。
妊娠中ブチルパラベン高度ばく露、児の喘息発症と関連示唆
母親の尿中フェノール測定の結果、フェノール毎にその分布が大きく異なっていることがわかった。まずは、各フェノールにおいて検出された集団と検出されなかった集団で子どもの喘息発症に差があるかを解析したが、統計学的に明らかな差を示すものはなかった。次に、多くの母親で検出されたフェノールにおいて、上位10%の集団とそれ以外の集団で喘息発症について検討した。その結果、ブチルパラベンの上位10%の集団では喘息発症のオッズ比が1.54(95%信頼区間1.11-2.15)と高いことがわかった。これは、妊娠中のブチルパラベンの高度ばく露が子どもの喘息発症と関連することを示している。
妊娠中4-ノニルフェノールばく露、男児の喘息発症と関連示唆
また、フェノールは女性ホルモン作用を持つ内分泌かく乱物質として知られているので、その影響に男女差があるかもしれないと考えられている。そこで、男児と女児それぞれについての影響を解析。結果として、4-ノニルフェノールが検出された女児の喘息発症オッズ比が0.65(95%信頼区間0.25-1.70)であったのに対し、男児のオッズ比は2.09(95%信頼区間1.20-3.65)と高いことがわった。これは妊娠中の4-ノニルフェノールばく露は男児の喘息発症と関連することを示唆しており、その影響には男女差があることを示している。
今後、どのような環境や生活習慣がフェノールばく露につながるのかを明らかに
今回の研究では、母親の尿中フェノール類測定結果と出生した子どもの喘息発症の関連を解析し、ブチルパラベンと4-ノニルフェノールが喘息発症と関連を明らかにした。これは妊娠中のフェノールばく露に関する安全基準を考える上で非常に有用だ。しかし、今回の研究では子どもの体内にどの程度のフェノールが存在しているのかを直接的には評価していない。また、喘息発症との関連が疑われたものの、測定感度以上で検出された参加者数が少なく有意な関連性を見出すことができなかったものもある。フェノールが子どもの健康に与える影響についてはさらなる研究が必要だとしている。
研究グループは引き続き、妊娠中のフェノールばく露が子どもの健康にどのように影響するのか調査を継続する。ブチルパラベンや4-ノニルフェノールが喘息発症のリスクを高めるメカニズムの解明だけでなく、どのような環境や生活習慣がそれぞれのフェノールばく露につながるのかを明らかにすることで、妊娠中の過ごし方に関する適切な提言につながると考えられる。同調査の継続により、子どもの発育や健康に影響を与える化学物質等の環境要因が明らかとなることが期待される、と研究グループは述べている。
▼関連リンク
・熊本大学 プレスリリース