心不全に関与の心臓線維化、PKNの役割は?
名古屋大学は9月13日、心筋梗塞および心不全モデルにおいて、心臓線維芽細胞にあるプロテインキナーゼN(PKN)は心臓線維化や心機能を制御していることを発見した。この研究は、同大大学院医学系研究科循環器内科学講座の吉田聡哉大学院生、竹藤幹人講師、室原豊明教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Nature Communications」に掲載されている。
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近年、世界的に心不全患者は急増しており、その難治性と厳しい予後を背景に社会問題となっている。心臓は障害を受けると線維組織を形成することで構造を維持するが、慢性的な線維組織形成は心臓の機能低下を引き起こし、心不全の発症と増悪に大きく寄与する。心臓の線維化を担っている主体は心臓線維芽細胞ということは知られているが、そのメカニズムに関しては未だ不明な点が多くある。
以前、研究グループは心筋細胞のPKNの活性が心筋肥大や心不全に関与することを報告した。今回の研究では、心臓線維芽細胞に注目し、心臓の線維化におけるPKNの役割について検討を行った。
心臓線維芽細胞特異的PKN欠損マウス、心臓線維化を抑制・左室収縮能低下を改善
心臓線維芽細胞にはPKN1、PKN2が発現しており、AngⅡおよびTGFβ刺激によりPKNが活性化されることを確認した。そして、心臓線維芽細胞特異的PKNノックアウトマウスを作製し、心筋梗塞後の線維化範囲および心機能を野生型マウスと比較。その結果、心臓線維芽細胞特異的PKNノックアウトマウスは心臓の線維化が抑制され、左室収縮能の低下も改善された。
次に、心臓線維芽細胞におけるPKNの働きに関して検討した。心臓線維芽細胞には主に増殖能、移動能、筋線維芽細胞への分化能がある。心臓線維芽細胞のPKNをノックダウンさせTGFβで刺激をすると、コントロールと比較して増殖能と移動能は有意な変化は認めなかったが、αSMAの発現が著明に低下し、コラーゲンⅠ、コラーゲンⅢの産生も抑制された。
PKN、心臓線維芽細胞の分化調整で心臓線維化を制御
続いて、PKNが心臓線維芽細胞の分化を調整するメカニズムを検証した。心臓線維芽細胞の分化にはp38 MAPKとsmad2/3が関与していることが明らかになっているが、PKNをノックダウンさせるとp38 MAPKの活性が著明に抑制され、反対にPKNを過剰に発現させるとp38 MAPKの活性が亢進した。一方でsmad2/3への影響は認めなかった。
また、心筋梗塞に加え、収縮の保たれた心不全についても検証。その結果、心臓線維芽細胞特異的PKNノックアウトマウスでは野生型マウスと比較し線維化が抑制され、拡張障害の進行抑制も確認された。
本研究の結果、心臓線維芽細胞のPKNは心臓線維化を制御していることが明らかになった。今後PKNを標的とした心不全の新たな治療法開発を展開する予定だ、と研究グループは述べている。
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