GALAXY試験データで、ctDNA検査結果とがんの再発リスク・生存期間との関連を調査
国立がん研究センターは9月17日、CIRCULATE-Japan GALAXY、リキッドバイオプシーによる大腸がんの再発リスクと術後治療効果の予測に有効性を確認したと発表した。この研究は、同センター東病院の吉野孝之副院長、中村能章国際研究推進室長、九州大学の沖英次准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Nature Medicine」に掲載されている。
画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)
がん治療の世界では、血液検査でctDNAを調べるリキッドバイオプシーが注目されている。進行がん患者の遺伝子を調べるリキッドバイオプシーは、すでに日本でも実際の診療で使われている。また、手術を受けた患者のctDNAを調べることで、がんの再発リスクがわかることも知られていた。しかし、ctDNAと患者の生存期間との関係や術後補助化学療法の効果との関係については、まだ十分な証拠がなかった。
そこで、国立がん研究センター東病院が中心となり、2020年からCIRCULATE-Japanという大規模な研究プロジェクトを始めた。このプロジェクトではctDNA検査を使って、手術を受ける大腸がん患者に適切な治療を届けることを目指している。CIRCULATE-Japanの一部であるGALAXY試験は、手術を受ける大腸がん患者の血液を調べてctDNAがあるか否かを確認する。
今回の研究では、GALAXY試験に参加した患者のデータを使って、ctDNAの検査結果が、がんの再発リスクや生存期間とどのように関係しているかを詳しく調べた。また、ctDNAの変化が術後の補助化学療法の効果とどのように関連しているかも確認した。
ctDNA陽性患者は陰性患者に比べ、がん再発リスクが高いと判明
CIRCULATE-JapanのGALAXY試験に参加した2,240人の大腸がん患者を対象に、ctDNA検査の結果とがんの再発リスクや生存期間を調査した。GALAXY試験では、患者から採取した血液サンプルを用いてctDNAの有無を調べた。ctDNA検査には、米国Natera社が開発したSignatera(シグナテラ)という最新技術を用いた。ctDNAの変化を詳しく見るために、手術前と手術後4週間目から定期的に血液を採取した。
研究の結果、術後2〜10週間で測定したctDNAが陽性だった患者は、陰性の患者と比べて、がんが再発するリスクが約12倍高くなることがわかった。また、2年後にがんが再発していない割合は、ctDNA陽性の患者で20.6%、陰性の患者で85.1%と大きな差があった。全体の生存率についても、2年後にctDNA陽性の患者で83.7%、陰性の患者で98.5%と差が見られた。さらに、がんが再発した患者の中でも、ctDNA陽性の患者と陰性の患者の間で生存期間に差があった。これらの結果は、手術後のctDNA検査が、大腸がん患者の再発リスクや生存期間を予測するのに非常に役立つことを示している。
ctDNA検査が、がんの遺伝子特性に関わらず再発リスクを予測
また、大腸がんではがんの遺伝子情報(バイオマーカー)によって特徴が異なることが最近わかっている。そこで、大腸がんで特に重要とされるバイオマーカーごとに、ctDNA検査の結果と再発リスクの関係を調べた。調べたバイオマーカーには、TP53 Y220C変異、高遺伝子変異量(TMB high)、RAS/BRAF遺伝子変異野生型(RAS/BRAF WT)、高マイクロサテライト不安定性(MSI high)、KRASG12C変異、ERBB2遺伝子増幅(ERBB2 amplification)、BRAF V600E変異などがある。
研究の結果、どのバイオマーカーを持っている患者でも、ctDNA陽性の患者は陰性の患者と比べて再発リスクが高いことが明らかになった。この発見は、ctDNA検査は、がんの遺伝子特性に関わらず、再発リスクを予測する強力なツールになり得ることを意味している。この結果は、個々の患者の遺伝子特性に基づいた治療方針の決定にctDNA検査が役立つ可能性を示唆している。
大腸がん患者の術後補助化学療法の効果予測や、治療方針決定に役立つ可能性
最後に、ctDNAが陽性の患者が術後補助化学療法を受けた場合のctDNAの変化について調べた。以前のGALAXY試験の報告では、ctDNAが陽性の患者では術後補助化学療法が効果的である一方、陰性の患者ではその効果がはっきりしないことがわかっていた。今回の研究では、さらに詳しい分析を行い、術後補助化学療法によるctDNAの変化とその影響について調べた。その結果、ctDNAが陽性の患者の中でも、術後補助化学療法を受けると、術後3か月または6か月の時点でctDNAが消失(検出されなくなる)している患者がいることがわかった。重要なのは、このようにctDNAが消失した患者では、その後の再発リスクが低く、生存期間も長くなる傾向があることが明らかになったことだ。この発見は、術後補助化学療法の効果を早い段階で評価できる可能性を示している。つまり、ctDNA検査を定期的に行うことで、治療が効果的に働いているかを判断し、必要に応じて治療方針を調整できる可能性がある。
これらの結果は、ctDNA検査が大腸がん患者の術後補助化学療法の効果予測や、個々の患者に合わせた治療方針の決定に大きく役立つ可能性を示している。
大腸がんのみならず、固形がんや血液腫瘍患者も対象とした大規模調査も開始
今回の研究成果は、大腸がん治療の個別化に向けた重要な一歩となる可能性がある。まず、ctDNA検査を用いることで、大腸がんの再発リスクをより正確に予測できる可能性が示されたことにより、患者一人ひとりの状況に合わせた、より適切な治療方針を立てられるようになるかもしれず、また、ctDNA検査を定期的に行うことで治療の効果を早い段階で判断できる可能性も示されたことにより、新しい治療法の効果を早期に評価する上でも有用と思われる。治療効果が早期にわかれば、効果のない治療を早めに中止したり、別の治療に切り替えたりすることができる可能性がある。今後、このような検査が承認されれば、広く臨床現場で使用されるようになることが期待される。そうなれば、多くの大腸がん患者がこの技術の恩恵を受けられるようになると思われる。
さらに、CIRCULATE-Japanでは同研究結果を検証するために、重要な臨床試験(ALTAIR試験、VEGA試験)が進行中だという。ALTAIR試験(JapicCTI-2053)はctDNA陽性の患者を対象としたランダム化比較第3相試験であり、VEGA試験(jRCT1031200006)は術後4週時点でのctDNA陰性の患者を対象としたランダム化比較第3相試験だ。これらの試験の結果が、ctDNA検査の臨床的有用性をさらに確認し、将来的な承認や普及につながることが期待される。また、CIRCULATE-Japanで得られた知見を大腸がん以外のがん患者にも広げるため、研究グループは新たな大規模研究「SCRUM-Japan MONSTAR-SCREEN-3」を開始した。この研究では対象を大腸がん患者だけでなく、固形がんの患者や血液腫瘍(血液がん)の患者にも広げ、リキッドバイオプシーを含めた最先端のマルチオミックス解析を行う予定だという。
「今後も世界最先端の解析を活用し、世界中のがん患者とそのご家族に有効な治療法を届けられるよう、がん個別化医療の発展に全力で取り組んでいく」と、研究グループは述べている。
▼関連リンク
・国立がん研究センター プレスリリース