発症率や生存率が加齢と関連する膀胱がん、分子生物学的な機序は未解明
東京大学医科学研究所は9月9日、p16陽性細胞を一細胞単位で単離が可能となる遺伝子改変マウスにおいて老齢個体を作成し、シングルセルRNA-seqを行うことで膀胱組織内のp16陽性老化細胞の遺伝子発現の特徴を解析したと発表した。この研究は、同研究所癌防御シグナル分野の目黒了客員研究員、中西真教授、城村由和助教(研究当時、現:金沢大学教授)、金沢大学がん進展制御研究所の城村由和教授、東京大学医科学研究所の山﨑聡教授、井元清哉教授、古川洋一教授、福島県立医科大学の小島祥敬教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Nature Aging」に掲載されている。
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これまで膀胱がんは加齢とともに発症率の上昇や生存率の低下を認める加齢関連疾患の一つであるとされてきたが、なぜ加齢が膀胱がんに関連するか、分子生物学的な機序は解明されていなかった。
老齢マウスの膀胱、主集団のp16陽性老化線維芽細胞でCxcl12遺伝子の発現上昇
研究グループはまず、タモキシフェンの投与によりp16陽性老化細胞を一細胞レベルで標識することが可能となるマウス、p16-CreERT2-tdTomatoマウスにおいて自然加齢による老齢モデルマウスを作成し、老化個体における膀胱組織を使用してシングルセルRNA-seqを施行した。その結果、マウス膀胱においてはp16陽性老化線維芽細胞がp16陽性老化細胞の主集団であり、またそのp16陽性老化線維芽細胞においてケモカインのひとつであるCxcl12遺伝子の発現が上昇していることがわかった。
p16陽性老化細胞の除去および老化細胞除去薬投与、マウス膀胱がんの発育を抑制
次に膀胱のp16陽性老化細胞が膀胱がんの発育に与える影響を確認するために、タモキシフェンおよびジフテリア毒素の投与によりp16陽性老化細胞の除去が可能となるp16-CreERT2-DTR-tdTomatoマウスを使用し、膀胱がんを移植したのちにp16陽性老化細胞を除去し膀胱がんの発育の変化を確認した。その結果、p16陽性老化細胞を除去したマウスでは膀胱がんの発育は抑制されることがわかった。また、膀胱がんの移植前または移植後にp16陽性老化細胞を標識し膀胱がん内部の老化細胞の数を比較したところ両者の数はほぼ同じであり、膀胱がん内部のp16陽性老化細胞はがんの移植後に出現したものではなく、移植前から膀胱組織内に存在していたp16陽性老化細胞が移植後に間質細胞となり、がんの発育に関連していたことがわかった。この結果を裏付けるように、p16陽性老化細胞を除去したのちに移植した場合でもがんの発育が抑制されることがわかった。また既存の老化細胞除去薬であるABT‐263を、膀胱がんを移植したマウスに投与したところ、同様に膀胱がんの発育が抑制されることを確認した。
p16陽性老化細胞の除去マウス、CXCL12発現低下と下流のAKT活性化抑制
加えて、CXCL12はがんの発育を促進することが知られているが、p16陽性老化細胞を除去したマウスにおいては膀胱がん内部のCXCL12の発現が低下しており、CXCL12下流経路の一つであるAKTの活性化も抑制されていることを確認した。また膀胱がん内部においてp16陽性老化線維芽細胞は老化がん関連線維芽細胞としてCXCL12の主要な産生源となっていることを確認した。従って、膀胱がん間質の老化がん関連線維芽細胞がCXCL12を分泌し、膀胱がんの発育に関与していることが示唆された。
p16陽性老化線維芽細胞集団で発現上昇の6遺伝子、年齢や膀胱がんの予後と相関
最後に、マウスの膀胱組織を使用したシングルセルRNA-seqの結果より、p16陽性老化線維芽細胞集団にて上昇していた上位6つの遺伝子を「老化がん線維芽細胞遺伝子セット」とし、400サンプル以上となるヒト膀胱がん組織のRNA seqデータセットと比較した。その結果、この遺伝子セットは年齢や膀胱がんの予後と相関しており、またこの遺伝子セットのハザード比を解析したところ、膀胱がんの病理学的病期分類と同等の予後予測能があることがわかった。
膀胱がんの新たな治療標的として期待できる
膀胱がんは全身療法である化学療法にはしばしば治療抵抗性を示し、分子標的薬もすべての膀胱がんに著効するわけではなく、比較的予後の悪いがんとされている。「マウス実験の結果は、ヒトの膀胱がんにおいても一部確認できていることから、今回の研究は膀胱がん内部のp16陽性老化がん関連線維芽細胞を標的とした新たな膀胱がん治療薬の開発の可能性が期待できる」と、研究グループは述べている。
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