東アジアではインスリン分泌能の評価が治療方針決定に重要
岐阜大学は9月6日、2型糖尿病治療におけるインクレチン関連薬(GLP-1受容体作動薬、DPP-4阻害薬)の使用が、1mgグルカゴン静脈負荷試験によるグルカゴン応答性インスリン分泌を低下させることを世界で初めて報告したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科 糖尿病・内分泌代謝内科学/膠原病・免疫内科学の原口卓也氏(大学院生、関西電力医学研究所糖尿病研究センター研究員・関西電力病院糖尿病・内分泌代謝センター医員)、関西電力医学研究所 糖尿病研究センター上級特別研究員の山崎裕自氏(関西電力病院糖尿病・内分泌代謝センター 部長)らの研究グループによるもの。研究成果は、「Diabetes」に掲載されている。
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糖尿病は、インスリン分泌の不足とインスリン抵抗性によって引き起こされる慢性疾患であり、その病態の評価には精緻なインスリン分泌能の評価が不可欠である。特に、東アジアにおける2型糖尿病は肥満によるインスリン抵抗性よりも、β細胞機能の低下によるインスリン分泌低下が病因として特徴づけられ、インスリン分泌能の評価が治療方針の決定において重要となっている。
分泌能評価のためのグルカゴン負荷試験、インクレチン関連薬使用時での結果に影響は?
1mgグルカゴン静脈負荷試験は、残存する膵β細胞のインスリン分泌能を評価するための標準的な検査方法として古くから広く使用されている。そのメカニズムとしては、グルカゴンによりβ細胞のグルカゴン受容体を介して直接インスリン分泌を引き起こすものと考えられていた。しかし近年、グルカゴン刺激によるインスリン分泌は、グルカゴン受容体のみならずインクレチンの1種であるGLP-1の受容体をも介して引き起こされていることが主に基礎的研究で報告されており、グルカゴン応答性インスリン分泌機構の新たな理解が進んできた。一方で、糖尿病状態のヒトにおいて、同様にグルカゴン応答性インスリン分泌がGLP-1受容体を介しているか否かは明らかではなかった。
2型糖尿病の治療目的の薬剤として、GLP-1受容体を介した血糖降下作用を示すインクレチン関連薬(GLP-1受容体作動薬、DPP-4阻害薬)は広く臨床上で使用されている。これらの薬剤は、GLP-1受容体を介したインスリン分泌促進メカニズムを有することから、薬剤使用時にグルカゴン負荷試験を行った場合、GLP-1受容体を介する作用が重複している、あるいはインクレチン関連薬による持続的な刺激状態が存在することから、グルカゴン応答性インスリン分泌が低下する可能性が想定された。
GLP-1受容体作動薬/DPP-4阻害薬、いずれもグルカゴン応答性インスリン分泌を低下
そこで研究グループは、関西電力医学研究所においてこれまで蓄積した多数例を対象に、インクレチン関連薬使用時のグルカゴン負荷試験結果への影響について、インクレチン関連薬非使用時と比較して低下するか否かを検討するため、1)GLP-1受容体作動薬使用前後のグルカゴン負荷試験結果の変化、2)DPP-4阻害薬使用者と非使用者におけるグルカゴン負荷試験結果の違い、この2課題についての後方視的な解析を行った。
その結果、GLP-1受容体作動薬使用前と比べ、使用後に有意にグルカゴン応答性インスリン分泌が低下することが示された。また、DPP-4阻害薬使用者と非使用者について、それぞれ傾向スコアマッチング法で対象者背景を揃えた上で各種インスリン分泌試験の解析を行ったところ、食事負荷試験や24時間蓄尿Cペプチド測定などのインスリン分泌能測定法では2群間に有意差がないにも関わらず、グルカゴン負荷試験時のグルカゴン応答性インスリン分泌がDPP-4阻害薬使用者で有意に低下することが示された。
初のリアルワールドエビデンス、インスリン分泌能の過小評価が懸念される結果
研究成果から、インクレチン関連薬使用時にグルカゴン負荷試験によるインスリン分泌能の過小評価が懸念されることが示された。さらにそのメカニズムとして、グルカゴンおよびインクレチン関連薬によるGLP-1受容体への影響が想定された。糖尿病においてもグルカゴン応答性インスリン分泌にGLP-1受容体が関与することを示唆する初のリアルワールドエビデンスと考えられた。
「今回の検討は、単施設で後ろ向きにインクレチン関連薬とグルカゴン負荷試験検査値の関連について示したものであり、今後は基礎的な研究を通じて、グルカゴンによる膵島におけるインスリン分泌機構の解明を進める予定をしている。また、実臨床におけるグルカゴン負荷時のインスリン分泌評価について、中長期的な実臨床における意義について再検討する」と、研究グループは述べている。
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