セマグルチドを使用しても自殺リスクは上昇せず
肥満症治療薬であるGLP-1受容体作動薬のセマグルチドの人気が急上昇する一方で、その潜在的な副作用に対する懸念も高まりを見せている。しかし、新たな研究により、そのような懸念の一つが払拭された。米ペンシルベニア大学ペレルマン医学大学院ペン自殺予防センター所長のGregory Brown氏らによる研究で、セマグルチドの使用により抑うつ症状や自殺念慮、自殺行動のリスクは増大しないことが示されたのだ。セマグルチドを有効成分とするオゼンピックやウゴービを製造するノボ ノルディスク社の資金提供を受けて実施されたこの研究の詳細は、「JAMA Internal Medicine」に9月3日掲載された。
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2型糖尿病治療薬として開発されたセマグルチドは、臨床試験で肥満症治療薬としての有効性が明らかにされて以降、大きな注目を集め、今や医師が患者に週1回のセマグルチドの皮下注射を処方することは珍しいことではなくなっている。実際に、2023年には500万人もの米国人がセマグルチドを処方されており、そのような人の10人に4人は体重管理のために同薬を使用しているという。
この研究では、セマグルチドに関する4つの主要な臨床試験(第3a相STEP1、2、3試験および第3b相STEP5試験)の対象者から得たデータを用いて、週に1回のセマグルチド2.4mgの皮下注射が精神面にどのような影響を与えるのかが、プラセボとの比較で検討された。STEP1、2、3試験の対象者は総計3,377人(平均年齢49歳、女性69.6%)、STEP5試験の対象者は304人(平均年齢47歳、女性77.6%)で、いずれも肥満または過体重であり、STEP2参加者は2型糖尿病にも罹患していた。対象者の抑うつ症状はPatient Health Questionnaire(PHQ-9)で、自殺念慮と自殺行動はコロンビア自殺重症度評価尺度(C-SSRS)で評価されていた。
STEP1、2、3試験対象者のベースライン時のPHQ-9スコアは、セマグルチド群で2.0点、プラセボ群で1.8点であり、抑うつ症状は「ない/最小限」と判定されていた。治療開始から68週目でのPHQ-9スコアは、同順で2.0点と2.4点であり、解析からは、68週間にわたる治療により、プラセボ群と比べてセマグルチド群のPHQ-9スコアの重症度カテゴリーが上昇する可能性は低いことが示された(オッズ比0.63、95%信頼区間0.50〜0.79、P<0.001)。自殺念慮や自殺行動については、治療中に両群ともに1%未満の対象者が自殺念慮を抱いたことを報告していたが、両群間に有意差はなかった。STEP5対象者の結果も、これらの結果と同様であった。
Brown氏は、「セマグルチドを使用している過体重や肥満の人が抑うつ症状、自殺念慮や自殺行動を経験する可能性は確かにあるが、本研究結果は、セマグルチドを使用していない人が自殺念慮や自殺行動を経験する可能性も同程度であることを示唆している」と言う。
研究グループは、「これらの結果は、米食品医薬品局(FDA)によるセマグルチドの継続的な調査結果と一致している」とペンシルベニア大学のニュースリリースの中で指摘している。最新のデータ分析では、セマグルチドの使用が自殺念慮や自殺行動を引き起こすという証拠は見つからなかったことが報告されているという。
しかし研究グループは、今回の研究に精神障害を有する人が含まれていなかったことを踏まえ、「うつ病やその他の重篤な精神障害罹患者に対するセマグルチドの効果については、さらなる研究で検討する必要がある」と話している。
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