開発が進む細胞移植医療、移植された細胞を画像診断で評価する方法は少ない
国立循環器病研究センターは9月5日、生体に移植された細胞を時間・空間的に追跡し、移植後の細胞機能を定量的に評価するSPECT技術を開発したと発表した。この研究は、同大分子薬理部の大谷健太郎研究室長、弘前大学大学院理工学研究科の銭谷勉教授、川崎医科大学の犬伏正幸准教授、フィンランドトゥルク大学トゥルクPETセンターの飯田秀博教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「European Journal of Nuclear Medicine and Molecular Imaging」にオンライン掲載されている。
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近年、組織再生を目的としたさまざまな細胞移植医療の研究開発が行われている。循環器領域においては、ヒト人工多能性細胞(iPS細胞)から心筋細胞を作製し、シート状(細胞シート)や小さなかたまり(心筋球)に加工して虚血性心疾患に伴う重症心不全患者に移植する治験が進められている。細胞移植医療開発において、組織修復に最適な移植細胞およびその移植方法の開発は広く進められているが、臓器局所に移植あるいは全身に投与された細胞が移植後にどのように体内に分布しているかや、移植された細胞がどこにどのくらいの期間にわたって体内で生存しているかを画像診断で評価する方法は意外に少ないのが現状である。
NIS発現細胞シートを心筋梗塞ラットに移植し、SPECT検査で追跡可能か検討
研究グループは、移植部位の細胞と区別して移植細胞を追跡できるようにするために、全身にヒト ナトリウム/ヨウ化物共輸送体(NIS)を発現するマウス(NIS-Tgマウス)を作製した。NIS発現細胞は、パーテクネテートを取り込むため、SPECT検査で検出することができる。NISを発現していないマウス(野生型マウス)とNIS-Tgマウスから胎児線維芽細胞(MEF)をそれぞれ分離・培養し、シート状に3層に積み重ねたMEF細胞シートを作成して、心筋梗塞を起こして2週間経過した別々のラットの心臓に移植した。野生型MEF細胞シート(コントロール群)とNIS-Tg MEF細胞シートを移植した心筋梗塞ラットにパーテクネテートを投与し、SPECT検査にてNISを発現した移植細胞の追跡が可能かを検討した。最後に、得られたSPECT画像から、移植した細胞シートの生存性を反映する細胞機能の指標が算出可能か検討した。
移植後約2週間SPECTで追跡、時間経過による細胞機能の変化も観察可能
その結果、野生型マウスのMEFシートはSPECTで検出することはできなかったが、NISを発現するマウスのMEFシートにはパーテクネテートが取り込まれることが確認できた。移植後約2週間にわたってSPECTで追跡することが可能だった。また、NISを発現する細胞を用いることにより、細胞機能の指標であるパーテクネテートの移行速度定数(K1)および分布容積(VT)の時間の経過による変化を観察することができた。この結果から、移植細胞にNISを発現させることにより、パーテクネテート投与によるSPECT検査にて移植後の細胞機能を長期にわたって評価することが可能であると結論できた。
今回の研究で確立した技術は、移植する細胞へNIS遺伝子を導入する必要があるが、基本的には現在開発中のさまざまな細胞移植医療への応用が可能だと考えられる。「SPECTは日常診療で行われている検査であるため、将来的に本技術の臨床応用が期待される」と、研究グループは述べている。
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・国立循環器病研究センター プレスリリース