COVID-19重症化における、血管内皮性状変化・機能異常の重要性を示唆
順天堂大学は9月5日、国内の新型コロナウイルス(SARS-Co-V2)感染症(COVID-19)患者と健常人の検体解析、および患者情報データの比較検討から、COVID-19の重症度と血中の血管内皮機能異常に由来する血液凝固・線維素溶解系(線溶系)因子である複合型プラスミノーゲンアクチベータ抑制因子-1(PAI-1)の濃度との相関性を見出したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科バイオリソースバンク活用研究支援講座のハイジッヒ・ベアーテ特任准教授、ヤツェンコ・タチアナ特任研究員、ゲノム・再生医療センターの服部浩一特任先任准教授、東京大学医科学研究所等の研究グループによるもの。研究成果は、「Frontiers in Immunology」オンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
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COVID-19は現在第11波(2024年7月~)にある。ウイルスの弱毒化が進んだとは言え、その高い感染力や免疫逃避能は依然脅威であり、欧米と比較して高齢化の進む日本では入院患者数も多く、今後の医療逼迫の危険性は払拭しきれていない。公衆衛生危機管理上もCOVID-19の病態、特に重症化機構の解明は、喫緊の重要課題と捉えられている。
COVID-19の重症化には、糖尿病や循環器系疾患などの合併症による、臓器特異的血管内皮障害とその機能異常、またこれを端緒とする血液凝固・線溶系の亢進が関与しているとの仮説が提示されている。研究グループの既報でも、日本と比較して重症者が有意に多かったドイツでは、患者の血液中で内皮障害に伴う血液凝固・線溶系の活性化が認められ、これがサイトカインストーム症候群の発生に関与していることを提示した。最近は、血液凝固・線溶系に属する血管内皮由来のアンジオクライン因子PAI-1やウロキナーゼ型PA(uPA)、uPA/PAI-1複合体の動態がCOVID-19の重症化のバイオマーカーとなりうることを明らかにしている。これらの研究成果は、COVID-19の重症化における、血管内皮の性状変化、あるいは機能異常の重要性を示唆している。
無作為抽出患者46人のPAI-1プロモーター遺伝子多型など解析
今回の研究では、2020年3月~2021年2月までの期間における18歳以上の本学医学部附属順天堂医院の入院・外来で同研究のインフォームドコンセントを得られたCOVID-19患者の中から、無作為抽出した46人の患者情報と血液、末梢血単核球の検体を収集し、炎症反応構成物質、血液凝固・線溶系因子を含むアンジオクライン因子の活性と血中濃度、PAI-1プロモーター遺伝子多型の解析を行った。期間を考慮すると、全てオミクロン株出現前の検体。重症度分類としてはthe Lean European Open Survey on SARS-CoV‑2(LEOSS)グループのレジストリ指標に準拠し、Complicated以上を重症に分類した。この範疇には日本の重症度分類における重症例が含まれることになる。患者46人の内、35人が軽症・中等症、11人が重症に分類された。
日本人に多い4G/4G型、炎症性サイトカインの産生抑制
PAI-1プロモーター遺伝子多型には4G/4G、4G/5G、5G/5Gが存在しており、遺伝学的に日本人に多い4G/4Gの患者では、4G/5G、欧米に多い5G/5Gの患者と比較して血中のプラスミノーゲン活性化因子と複合化したPAI-1が高値で循環し、IL-1βとプラスミンが有意に低値であった。このことから、線溶系と炎症性サイトカインの産生が抑制されていることが示唆された。
欧米に多い5G/5G、重症患者の中で占める割合「高」
また、重症患者の中で5G/5Gの占める割合が有意に高いことが判明。研究グループは、日本人患者のCOVID-19の重症度が、ドイツ人と比較して有意に低いことを報告しているが、この研究成果がその理由を示唆している可能性がある。
線溶系の抑制因子PAI-1、4G/4G型が多い日本人はサイトカインストームを起こしにくい可能性
今回の研究により、COVID-19の重症度に遺伝学的背景が関与していることが示唆された。研究グループはこれまでにCOVID-19の重症化病態であるサイトカインストーム症候群の発生に血液凝固・線溶系の亢進が関与しており、このことが臓器特異的血管内皮障害・機能異常が存在することを報告している。PAI-1は線溶系の抑制因子のため、日本人はサイトカインストームを起こしにくい体質を有している可能性がある。血中の凝固・線溶系を含むアンジオクライン因子は、COVID-19の重症化の予見や早期診断において有用であるだけでなく、新しい治療標的としての可能性を有している。今後は、COVID-19を含めた多くのサイトカインストーム症候群、炎症性疾患に対し、こうした遺伝学的背景を考慮したオーダーメイド医療の開発基盤の形成が期待される、と研究グループは述べている。
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・順天堂大学 プレスリリース