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ヒトMuse細胞の投与が「放射線腸管障害」に有効な可能性、マウスで確認-量研ほか

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2024年09月10日 AM09:00

」の放射線腸管障害に対する治療効果は不明だった

(以下、QST)は9月4日、放射線腸管障害の治療に「Muse細胞」が有望であることを発見したと発表した。この研究は、QST放射線医学研究所 放射線規制科学研究部 組織再生治療研究グループの三浦太一主任研究員、中山文明専門業務員とQST病院 治療診断部 消化器腫瘍課の山田滋課長、瀧山博年医長、 糖鎖生命システム融合研究所の西原祥子特別教授(所長)らの研究グループによるもの。研究成果は、「Advances in Radiation Oncology」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

腸管は放射線障害を受けやすい組織であるため、放射線腸管障害に対する治療法の確立が必要だが、いまだに有効な治療法はない。そこで研究グループは放射線腸管障害を治療するツールとして、骨髄や脂肪に存在し、傷ついた組織の修復を担っているMuse細胞に着目した。Muse細胞の最大の特徴は、ダメージ受けた箇所を認識して集積し、組織の修復を促進することにある。実際に、急性心筋梗塞、脳梗塞、、表皮水疱症などの疾患に対してMuse細胞の投与が有効であることが動物実験により明らかにされており、近年では脳梗塞や心筋梗塞などを対象とした臨床試験も進められている。しかし、Muse細胞の放射線腸管障害に対する治療効果については解明されていなかった。

そこで今回、マウスを用いてヒトのMuse細胞が放射線腸管障害の治療に有効であるかについて検討した。

投与したヒトMuse細胞が、放射線障害を受けたマウス小腸に集積することを確認

Muse細胞の細胞膜上には、スフィンゴシン1リン酸(S1P)に対する受容体(S1PR2)が高発現していることが知られている。また、これまでのMuse細胞研究によると、ダメージを受けた組織の細胞から分泌されるS1PとMuse細胞上のS1PR2が結合することで、Muse細胞がダメージを受けた箇所に集積することが報告されている。

研究グループはまず、放射線照射後のマウスの腸管でS1Pが増加するか解析した。マウスの全身に放射線(γ線、10Gy)を照射し、放射線腸管障害を起こした小腸におけるS1Pの発現を質量分析により検討した。その結果、照射後24時間からS1Pの分泌量が増加し、48時間後には約2倍に増加することがわかった。このことから、Muse細胞を投与すれば、腸管の放射線障害部位に集積する可能性が高いと考えた。

次に、赤色に光る色素を取り込ませたヒトMuse細胞(5×105個)を、(γ線、10Gy)照射したマウスの静脈に注射。投与48時間後にマウスを解剖し、小腸内を観察したところ、投与したヒトMuse細胞が放射線障害部位に集積していることが判明した。また、ヒトMuse細胞を投与する際にMuse細胞上のS1PR2とS1Pとの結合を阻害する薬剤JTE-013を併用したマウスでは、投与したMuse細胞が小腸に集まらないこともわかった。これらの結果から、投与したヒトMuse細胞のS1PR2が、放射線腸管障害を受けた小腸細胞で分泌されたS1Pと結合することによって障害部位に集積することが明らかになった。

放射線障害で減少するクリプト、ヒトMuse細胞を投与したマウスでは約2.8倍多い

放射線照射後に小腸などの腸管で障害が起こる主要な原因の一つに、腸を構成するさまざまな細胞を作ることができる特殊な細胞(幹細胞)が、放射線により死滅することがあげられる。この幹細胞は「クリプト」と呼ばれるユニークな構造を形成しており、放射線障害が起きた小腸ではこのクリプト数が少なくなることがわかっている。したがって、放射線照射後にクリプト数を計測することで放射線腸管障害の程度を評価することができ、これをクリプト解析と呼ぶ。

研究グループはヒトMuse細胞の投与による放射線腸管障害に対する治療効果を評価するため、マウスの全身に放射線(γ線、10Gy)を照射した2時間後に、ヒトMuse細胞(5×105個)を静脈より投与し、その後クリプト解析を行った。その結果、ヒトMuse細胞を投与していないマウスおよびJTE-013を併用したマウスと比較して、ヒトMuse細胞を投与したマウスではクリプト数が約2.8倍多いことがわかった。

この結果から、ヒトMuse細胞はマウス小腸における放射線腸管障害に対して治療効果を発揮することが明らかになった。

Muse細胞のみを投与したマウスの組織の形が、非照射マウスに比較的近いことも判明

さらに、放射線(γ線、10Gy)を照射した2時間後にヒトMuse細胞を投与し、小腸を構成するさまざまな細胞を観察した。その結果、ヒトMuse細胞を投与していないマウスでは、小腸を構成する細胞の多くが死滅していた。ヒトMuse細胞のみを投与したマウスとJTE-013を併用したマウスを比較すると、Muse細胞のみを投与したマウスの方が各細胞とも多くが生存し、組織としての形は非照射マウスのものに比較的近いことが判明した。

腸以外の放射線障害に対してもMuse細胞の投与が有効か調べる予定

今回の研究により、ヒトMuse細胞が放射線腸管障害の治療に有望であることが示された。「今後は、ヒトの腸でも放射線照射に伴いS1Pが増加するか、また、予期せぬ被ばく後の再生治療にもMuse細胞を用いることができるかなどを解析し、Muse細胞による放射線腸管障害治療への臨床応用の可能性を探りたいと考えている。また、腸以外の皮膚、肺、神経などの放射線障害に対してもMuse細胞の投与が有効か調べる予定だ」と、研究グループは述べている。

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