MCI早期発見、予防・回復に向けて研究開発が望まれる
名古屋工業大学は9月4日、手指デバイスを利用した精神的フレイル(軽度認知障害等)の予防・回復を促す脳力トレーニング(脳トレ)システムの開発に国内で初めて成功したと発表した。この研究は、愛知産業大学の石橋豊教授、同大の森田良文教授らの研究グループによるものだ。
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高齢化社会の進展にともなう医療・介護の急増に対して、「健康な状態」と「要介護の状態」の中間段階である「心身機能脆弱状態(フレイル)」の予防およびフレイルからの回復が急務な課題となっている。フレイルには身体的、精神的・社会的フレイルがある。精神的フレイルの代表として認知障害が挙げられ、大まかに健常者、軽度認知障害(MCI)、認知症の3段階に区分される。現在、日本におけるMCIの方は400万人、認知症の方は500万人程度と推定されており、今後さらに増大すると推測されている。認知症の段階ではその進行を止める医学的手法は現時点で確立されていないが、MCIの段階では回復する事例が報告されており、MCIの早期発見、予防・回復に向けての研究開発が望まれている。
手指デバイス利用の脳トレシステム、高齢者が自宅で使う場合を想定
研究グループは、フレイルの種類(身体的、精神的、社会的)、程度を推定し、回復のための最適なデバイスを推奨するテーラーメイドシステムと、デバイスの日々の使用結果を記録する予防・見守りシステムを統合化することを目指して研究開発を進めてきた。同プロジェクトの中で、特に精神的フレイルの予防・回復に取り組んできたのが、新たな手指デバイスの開発とそれを利用した脳トレシステムの開発だ。
精神的フレイルは脳の能力の衰えと捉えられているが、指先も第2の脳と言われるように脳と密接な繋がりがあると考えられている。しかし、手の動作に対しては、これまで握力での評価が主体だった。そこで、研究グループは、手指の小さな把持力(100g~500g)に着目し、手指で操作するデバイスを開発。開発に当たり、高齢者が自宅で使う場合での接続ストレスや、接続ミスによるトラブルを低減するため、構成部品を一体化し、また、外装ケースの触り心地の改善、デザインの変更を行い、研究機器のイメージからの脱却を図った。手指デバイス間のばらつきを補正可能な校正機器も開発し、信頼性の向上にも取り組んだ。
実証研究でMCI群スクリーニングの可能性、高齢者の認知機能向上など
脳トレアプリでは、使用者が手指デバイスの把持力を調整しながら、画面上に表示された所定の把持力に合わせてデバイスを操作する。タブレット端末と手指デバイスだけで、簡単に脳トレアプリを利用できる。同脳トレアプリを用いて各種実証研究を実施。1日の課題は、1つの線課題と5つの星課題からなり、いずれも目標値と測定値の差分により評価し、差分が小さいほど把持力の調整能力が高いことを示す。星課題は、目標値をなぞることで星の獲得数が多くなり、5日ごとに星課題の難易度が適切に上昇することで、トレーニングのモチベーションを維持できる工夫がされている。
若年健常者・高齢者・MCI群を対象とした評価では、MCI群で目標値と測定値の差分が大きく、被験者間のばらつきが収束しない結果となった。MCI群のスクリーニングの可能性が示唆された。また、地域在住高齢者(健常者)対象の評価では、把持調整能力の向上、被験者間のばらつき減少、認知機能の向上が確認された。QOL向上の可能性が示唆された。
脳卒中・自閉症患者の回復支援にも役立つ可能性
脳卒中患者対象の評価では、手指デバイスを組み合わせたことで上肢運動機能の回復が向上。回復支援の可能性が示唆された。自閉症患者対象の評価では、把握力調整能力の改善が見られたため、回復支援の可能性が示唆された。
このような結果から、MCI群のスクリーニングに加え、健常者でも認知機能に良い結果を示しQOL向上の可能性が示唆された。脳卒中患者や自閉症患者の回復支援に役立つことも示された。手指デバイスが、認知機能低下の早期発見や効果的な認知機能のトレーニングをはじめとして、精神的フレイルの予防・回復支援等に広く有効であることが示された。
同システム提供の名工大発スタートアップ立ち上げ予定、応用展開に期待
今後、同システムを利用した実証研究の拡大や、リハビリテーション施設、病院等での応用展開が期待される。また、同システムを提供する名古屋工業大学発スタートアップが今年中に立ち上がる予定だ、と研究グループは述べている。
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・名古屋工業大学 プレスリリース