Milan基準と5-5-500基準の組み合わせの妥当性を検証
広島大学は9月4日、肝細胞がんに対す生体肝移植におけるJapan基準(Milan基準と5-5-500基準の組み合わせ)の妥当性とJapan基準内における肝臓移植後の予後不良因子を明らかにしたと発表した。この研究は、同大病院未来医療センターの大平真裕助教、同大大学院医系科学研究科消化器・移植外科学の大段秀樹教授らの研究グループと日本肝移植学会の多施設共同プロジェクトが共同で行ったもの。研究成果は、「BJS Open」に掲載されている。
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1996年に導入されたMilan基準は、腫瘍径5cm以内、1個あるいは腫瘍径3cm以内、3個以内、肝臓外にがん細胞の転移がないこととされている。肝細胞がん患者に対する肝移植の適応を制限しつつも良好な予後を示す指標として広く受け入れられてきたが、適応の狭さから一部の患者が移植の恩恵を受けられない状況が生じていた。
これを受け、日本では基準の拡張が試みられ、その結果、5-5-500基準(最大腫瘍径が5cm以下、腫瘍数が5個以下、かつアルファフェトプロテイン(AFP)値が500ng/ml以下)が提案された。今回の研究は、肝細胞がん患者に対する生体肝移植におけるJapan基準(Milan基準と5-5-500基準の組み合わせ)の妥当性を検証すること、この新基準の有効性と予後に関与するリスク因子を明らかにすることを目的としている。
Japan基準は現在、肝細胞がんに対する肝臓移植の保険適応基準となっている。この基準を超える場合は、施設毎に判断を行い自費診療で肝移植を行っている。世界的にはMilan基準が古くから使われているが、基準が厳しいため拡大基準を用いている施設が多くなっている。米国ではUCSF基準(腫瘍径6.5cm以下単発、腫瘍径4.5cm以下3個以内,腫瘍径合計8cm以内)、韓国ではAsan基準(腫瘍数6個以下、最大腫瘍径5cm以下)が用いられている。
Milan基準内かつ5-5-500基準外の患者は予後不良
2010~2018年の間に日本全国37施設で生体肝移植を受けた肝細胞がん患者のデータを用いて、新しいJapan基準の妥当性を検証した。対象患者は516人で、そのうち485人がJapan基準を満たし、31人が基準を超えていた。研究の結果、Japan基準を満たす患者の5年生存率は81%、5年無再発生存率は77%であり、基準を超えた患者の生存率(58%)および無再発生存率(48%)と比較して有意に高いことが示された。また、Milan基準を満たしていても5-5-500基準を満たさない患者は、予後が悪いことが明らかになった。
独立した予後不良因子は「NLRが5以上」「肝切除の既往」
さらに、多変量解析により、NLR(好中球対リンパ球比)が5以上であることと、肝切除の既往があることが、独立した予後不良因子であることが判明した。NLRが高いことは、全身性炎症を示す指標として知られており、移植後の生存率や無再発生存率に悪影響を与える可能性がある。また、肝切除の既往がある患者は、再移植時における手術の複雑さや術後の合併症リスクが高まるため、予後が悪化する可能性があると考えられた。
移植後の管理や治療方針をより適切に決定できる可能性
今回の研究結果は、Japan基準が肝細胞がん患者に対する生体肝移植の適応基準として妥当であることを支持するものであり、特に5-5-500基準が患者選択の有効な指標であることが確認された。また、NLRや肝切除の既往といった要因が予後に与える影響を考慮することで、移植後の管理や治療方針をより適切に決定できる可能性が示唆された。「今後の臨床実践において、より多くの患者が移植の恩恵を受け、良好な予後を期待できる可能性が広がると考えられる」と、研究グループは述べている。
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・広島大学 研究成果