習慣的な運動は「恐怖記憶」の消去に効果的?BDNFとの関連は?
筑波大学は8月29日、習慣的な非常に軽い運動が恐怖記憶の消去を促し、その神経分子基盤としてBDNF(脳由来神経栄養因子)が関与することを明らかにしたと発表した。この研究は、同大体育系の征矢英昭教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Medicine & Science in Sports & Exercise」オンライン版に掲載されている。
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ストレスによって誘発される代表的な精神疾患の一つとして心的外傷後ストレス障害(PTSD:Post Traumatic Stress Disorder)が挙げられる。近年、運動がPTSDの予防や治療に有効だとする報告が散見されるようになった。その神経分子基盤の一つの仮説として、BDNF(脳由来神経栄養因子)がある。BDNFは恐怖記憶の消去に重要な因子とされ、習慣的な運動によって脳内で発現が高まることが知られている。
そこで研究グループは今回、独自に開発した動物用のトレッドミル運動モデルを活用し、習慣的な運動が恐怖記憶の消去に効果的か、また、その背景としてBDNFの関与があるかを検証した。
習慣的な運動がラットの恐怖記憶の消去を促進
実験ではまず、ラットを箱の中に入れて軽微な電気刺激を与え、恐怖を記憶させた。続いて、ラットを箱から取り出し、低強度の運動トレーニングを4週間実施した後、再びラットを箱の中に入れてその行動を観察し、運動トレーニングを実施していないラットと比較した。
ラットは恐怖を覚えていると立ちすくみ行動を示す。最初はどのラットも立ちすくみ行動を示したが、習慣的に運動を行ったラットは、徐々に活発に行動するようになった。このことは、習慣的な運動が恐怖記憶の消去を促進したことを意味するという。
低強度運動による恐怖記憶の消去にBDNFシグナリングが関与
さらに、低強度運動をしたラットにBDNFの作用を阻害する薬を投与すると、運動の効果は消失したことから、低強度運動による恐怖記憶の消去は、BDNFシグナリングが関与することが判明した。
運動を基盤としたPTSDの治療・予防プログラム開発につながる可能性
運動はトラウマ体験によるマイナスの心理状況から回復させ、PTSDの治療効果を発揮する可能性がある。また、PTSD患者はうつ症状を併発していることが多く、運動継続率が低いことも問題となっている。
「本研究で示したように、運動継続性を担保しやすい低強度運動でも恐怖記憶消去に対し有効であるとする知見は、精神疾患に対する臨床研究への応用、さらには従来とは異なる運動を基盤とした治療・予防プログラムの開発につながる可能性がある」と、研究グループは述べている。
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・筑波大学 TSUKUBA JOURNAL