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ヒトiPS細胞由来の肝臓オルガノイド、内部の胆管構造再現に成功-東大医科研

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2024年09月03日 AM09:30

従来の肝臓オルガノイド、機能的な胆管構造がないことが課題だった

東京大学医科学研究所は8月30日、内部に胆管構造を有する新たな肝臓オルガノイド(Blood vessel incorporated liver organoid:BVLO)の開発に成功したと発表した。この研究は、同研究所再生医学分野の奥村歩大学院生(博士課程)、谷水直樹准教授、谷口英樹教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Nature Communications」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

ヒトiPS細胞を用いたオルガノイド研究では、一般的に細胞の自律的な凝集能力を利用して3次元的形態を誘導する。しかしながら、ヒトiPS細胞を用いたヒト臓器の創出を実現するためには、血管と上皮組織の空間配置や隣接する組織間の接続など、秩序だった臓器内部の構造を生体外で人為的に再現することや、生体に導入する際に血管吻合を可能にする大血管の導入など、新たなアイデアと技術開発が求められている。

従来の肝臓オルガノイドには機能的な胆管構造が存在せず、肝臓組織内で産生される細胞毒性を持つ胆汁が蓄積してしまうことが危惧されていた。そのため、オルガノイドの肝臓としての機能を長期維持するためにヒトの胆管構造を人為的に再構成することが重要な開発目標となっていた。

チューブ状の胆管構造備えた肝臓オルガノイド「BVLO」創出に成功

研究グループは、マウスおよびヒト胎児肝臓での解析結果に着想を得て、ヒトiPS細胞を用いて作製した大血管と肝臓組織の相互作用を人為的に再現する培養系を新たにデザインした。従来よりも太いヒトiPS細胞由来の人工血管とヒトiPS細胞由来の未熟な肝臓組織を3次元的に共培養することにより、チューブ状の胆管構造を備えた肝臓オルガノイドであるBVLOを創出した。

胆管疾患マウスへ移植で胆汁うっ滞改善

胆管は肝細胞が産生する胆汁を肝臓から小腸へ輸送する流路だが、水分や炭酸イオンを分泌して胆汁が持つ細胞毒性を緩和する役割も担っている。BVLO内の胆管はチューブ状構造を形成しているだけでなく、トランスポーターを発現することで水やイオンの分泌能を備えるなど、胆管として機能するために必要な能力を獲得していた。BVLOを胆管疾患モデルマウスの肝臓に移植すると、胆汁うっ滞(肝臓組織に細胞毒性を持つ胆汁が滞留する病態)が改善することも明らかになった。

PBCやPSCなどのヒト胆管疾患モデル作製にも有用であることを示唆

肝臓の胆管には、(Primary biliary cholangitis:PBC)や原発性硬化性胆管炎(Primary Scleosis cholangitis:PSC)など原因が解明されていない難病が多くある。ヒトiPS細胞を用いた疾患モデル作製が可能になれば、詳しい病態解明に役立つ。

また、膜タンパク質JAGGED1(JAG1)の変異によって引き起こされる遺伝病であるアラジール症候群も胆管が形成されない難病である。研究グループはJAG1を欠損したヒトiPS細胞(共同研究者から入手)を含む人工血管を用いてBVLOを構築すると、胆管が形成されなくなることを確認した。この結果は、血管と胆管を含むBVLOが、ヒト胆管疾患モデルを作製するための基本技術として利用価値が非常に高いことを示している。

ヒトiPS細胞を駆使したヒト臓器の創出のための一歩

今回の研究では、肝臓オルガノイド内の血管構造による胆管形成誘導に注目してきた。一方、BVLOには肝臓の代謝機能を担う肝細胞も存在している。今後、オルガノイド内の肝細胞や胆管の「形」と「機能」をより生体内に近似させ、高度な肝機能の長期間維持を可能にすることで、生体外での人工的なヒト臓器(肝臓)の創出に近づくことが期待できる。「本研究成果は胆管疾患についての理解や治療法開発、さらにはヒトiPS細胞を駆使したヒト臓器の創出という究極の目標達成のための大きな一歩となる」と、研究グループは述べている。

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