新たな「血小板スコア」で脳卒中や心筋梗塞リスクを予測
実験段階にある遺伝子検査によって、命に関わることもある血栓症のリスクを予測できる可能性のあることが、米ニューヨーク大学(NYU)グロスマン医科大学院心血管疾患予防センターのJeffrey Berger氏らの研究で示された。この新たな検査でスコアが高かった末梢動脈疾患(PAD)患者は、下肢血行再建術(足の閉塞した動脈を広げて血流を取り戻す治療)後の心筋梗塞や脳卒中、下肢切断のリスクが2倍以上であることが示されたという。この研究結果は、「Nature Communications」に8月20日掲載された。
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この検査は、血小板の機能(反応性)が亢進状態であるかどうかを評価するもの。血小板は最も小さな血液細胞であり、傷ついた血管からの出血を検知すると凝集して血栓を形成する。本研究の背景情報によると、心臓専門医の間ではこれまで、一部の人で血小板機能が亢進し、心筋梗塞や脳卒中、PADなどを引き起こす血栓が形成されやすくなることが知られていた。しかし、血小板機能を調べるために日常的に行われている血小板凝集検査は、検査機関により結果が異なり、有用性は高くなかったという。
本研究ではまず、下肢血行再建術前にエピネフリン0.4μMを用いた血小板凝集能の測定を受けた254人のPAD患者を対象に、血小板機能の亢進と心筋梗塞や脳卒中、下肢切断の複合エンドポイント(MACLE)との関連が検討された。その結果、血小板機能亢進(凝集率60%超と定義)と判定された17.5%の患者での下肢血行再建術後30日以内のMACLEの発生リスクは、血小板機能亢進が認められなかった患者の2倍以上であることが明らかになった(37.2%対15.3%、HR 2.76、95%信頼区間1.5〜5.1)。
次にBerger氏らは、下肢血行再建術前に129人の患者(うち、血小板機能亢進が確認された患者は19人〔22.6%〕)から採取されていたサンプルを用いて血小板のRNAシーケンシングを行い、血小板機能亢進が認められなかった患者とは異なる451の遺伝子を特定した。その上で、バイオインフォマティクスを用いてこれらの遺伝的な差異に重み付けを行い、各患者の「Platelet Reactivity ExpreSsion Score(PRESS);血小板反応性発現スコア」を算出した。その上で、血小板機能亢進患者の特定について、このスコアの性能を評価したところ、PRESSは、PAD患者においても(交差検証によるROC曲線下面積〔AUC〕0.81、95%信頼区間0.68〜0.94)、健康な参加者の独立コホートにおいても(AUC 0.77、95%信頼区間0.75〜0.79)、良好に機能することが示された。さらに、別のPAD患者の集団でPRESSの精度を検証した。その結果、PRESSのスコアが中央値を上回っていた患者では、中央値を下回っていた患者と比べて心筋梗塞や脳卒中のリスクが90%有意に高いことが示された。
「われわれの研究の結果は、血小板を中心に据えた新しいスコアリングシステムによって、血小板機能亢進とそれに関連する心血管イベントのリスクを、高い信頼性をもって予測できることを示している」とBerger氏は言う。同氏らによると、この血小板のスコアによって、心筋梗塞のリスクが高い疾患のある人だけでなく、健康な人についても血小板機能亢進の有無を判定できるのだという。
Berger氏はこの新たな検査について、「抗血小板療法の対象を、同療法の恩恵を受ける可能性が最も高い、血小板機能亢進を伴う患者に限定する助けとなる可能性がある」と付言している。
Berger氏はNYUのニュースリリースの中で、「現在、医師は血小板の機能とは直接関係のない脂質異常症や高血圧などのリスク因子に基づいて、血小板の活性を阻害する薬剤であるアスピリンを処方している」と説明。しかし同氏らは、アスピリンにより危険な出血リスクが高まる可能性のあることを指摘している。
NYUランゴン医学・病理学部助教のTessa Barrett氏は、「現在の診療では、心筋梗塞や脳卒中の初発予防に抗血小板療法をルーチンで行うことは推奨されていない。しかし、血小板をベースとした検査によってリスクの最も高い患者や、抗血小板療法による心血管イベントの予防において最大の恩恵が見込める患者を特定できる可能性がある」と話し、「このスコアにより、心血管疾患リスク抑制の個別化が進展する可能性がある」との展望を示している。
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