FAP患者の腸内細菌を調べることは、大腸がんになりやすい腸内環境の理解につながる
国立がん研究センターは8月23日、家族性大腸腺腫症(FAP)に特徴的な腸内環境を明らかにし、ポリープから大腸がんに至る腸内細菌変動を明らかにしたと発表した。この研究は、大阪大学大学院医学系研究科の谷内田真一教授と東京工業大学生命理工学院の山田拓司准教授、京都府立医科大学の石川秀樹特任教授(石川消化器内科)、国立がん研究センター中央病院の斎藤豊内視鏡科長らの研究グループによるもの。研究成果は、「Gut」に掲載されている。
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大腸ポリープは多くの方が持っている病気で、長い年月(約10~20年)を経て大腸がんになることが知られている(大腸多段階発がんモデル)。したがって、ポリープが大腸がんになる腸内環境をとらえるためには長い年月が必要だった。
FAPは大腸にポリープが100個以上できる病気で、1991年に中村祐輔氏らが発見した。APC遺伝子という遺伝子が生まれつきうまく働かない変異があることが多く、日本では1万7,400人に1人の頻度とされている。年齢とともにポリープ数が増加するだけでなく、やがてがん化する。典型例では10歳代で大腸にポリープができ始め、その後徐々に増え、放っておくと40歳代までには約半数の患者、60歳代にはほぼ100%大腸がんになると推測されている。このため、大腸ポリープが大腸がんになる前に大腸を切除する(大腸(亜)全摘術)などの治療が行われている。
FAPのポリープは短期間でがん化することが多いため、経時的に腸内環境を観察することで「ポリープからがん」になる過程を「短いタイムスパン」で捉えることができる。また、大腸がんの発がんには環境要因も作用する。例えば双子のFAP患者では、ポリープの数や発がん時期は異なる。これは環境因子(食生活、タバコ、アルコールなど)による影響と考えられている。FAPの大腸がんと一般的なポリープから大腸がんができる遺伝子異常は同じであるため、FAP患者の環境因子(腸内細菌など)を調べることで、大腸がんになりやすい腸内環境の理解が深まると考えられる。
FAP患者腸内で、健常者の大腸にはほとんど存在しない大腸菌の増加を確認
研究グループは今回、希少な遺伝性疾患FAPのうち、大腸(亜)全摘術を受けていないFAP患者に研究に協力を依頼。これらの患者は、国立がん研究センター中央病院や石川消化器内科で「徹底的ポリープ摘除術」を定期的(4~12か月)に行っている。
まずFAP患者の腸内細菌叢を健常者の腸内細菌叢と比較した。その結果、健常者では大腸内にはほとんど存在しない大腸菌(Escherichia coli)がFAP患者において非常に増えていることが明らかとなった。
ポリープの組織学的悪性度が変化するFAP患者は腸内細菌叢の変動「大」
FAP患者には定期的な「徹底的ポリープ摘除術」ごとに採便を依頼し(多い患者で10回)、定期的に腸内細菌叢の変化を観察したが、多くのFAP患者では腸内細菌叢の変動はあまり見られなかった。一方で、ポリープの組織学的悪性度(大腸腺腫が大腸がんになること)が変化するFAP患者では、腸内細菌叢の変動が大きいことが明らかとなった。
大腸がんの発症機構の解明や予防につながることに期待
今回、徹底的ポリープ摘除術を受けたFAP患者の腸内環境を観察した結果、腸内細菌の種類に大きな変動がある時に発がんすることが明らかになった。この変化は、FAP患者に限らず一般の人でも同様に当てはまると考えられることから、腸内細菌叢を経時的に観察することで大腸がん予防が期待される。
「FAPはまれな遺伝性の病気だが、FAP患者の前がん病変(ポリープ)から大腸がんになるメカニズムは一般的なポリープと同じだ。FAPという疾患を研究することで、ポリープからがんになる過程を短いタイムスパンで捉えることができ、大腸がんの発症機構の解明が大きく進展する。解明が進めば、大腸がんの原因となる細菌を特定し、それを制圧することで大腸がんの予防が期待できる」と、研究グループは述べている。
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・国立がん研究センター プレスリリース