アビラテロンとエンザルタミドの心血管イベント発症を評価・比較
岐阜薬科大学は8月23日、前立腺がんに対するアビラテロンやエンザルタミドなどのアンドロゲン受容体経路阻害薬による心血管イベント発症の違いを評価し、薬による心血管イベント発症の違いを発見したと発表した。この研究は、同大先端医療薬局学寄附講座および実践薬学大講座、病院薬学研究室によるもの。研究成果は、「Oncology」に掲載されている。
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男性で最も多く診断されるがんは前立腺がんであり、アビラテロン(アンドロゲン生合成阻害薬;2011年FDA承認)やエンザルタミド(アンドロゲン受容体拮抗薬;2012年FDA承認)などのアンドロゲン受容体経路阻害薬(ARPI)によって治療が行われている。最近、FDAの有害事象報告システム(FAERS)を用いたARPIと心血管イベントの解析結果が報告されたが、実臨床におけるアビラテロンとエンザルタミドの心血管イベントに関するエビデンスは十分ではなかった。
そこで研究グループは、株式会社日本医療データセンター(JMDC)が提供する約600施設の医療機関を受診した患者データを用いてアンドロゲン受容体経路阻害薬による心血管イベント発症の違いを評価した。
エンザルタミドは心血管死、主要心血管イベント、心筋梗塞の累積発生率が有意に低い
エンザルタミド服用群およびアビラテロン服用群の患者背景を傾向スコアマッチングにより調整した後、心血管死、全心血管イベント、主要心血管イベント、心筋梗塞、心不全、脳卒中の累積発生率を比較した。
その結果、エンザルタミドはアビラテロンと比較して、心血管死(ハザード比(HR):0.30、95%信頼区間(95%CI):0.10-0.93)、すべての心血管イベント(HR:0.79、95%CI:0.64-0.98)、主要な心血管イベント(HR:0.79、95%CI:0.64-0.97)、心筋梗塞(HR:0.62、95%CI:0.46-0.84)の累積発症率が有意に低いことを示した。
エンザルタミドによる血清テストステロン値の上昇は心血管イベント発生率を低下させる可能性
アビラテロンの抗アンドロゲン作用は、17α-ヒドロキシラーゼ/17,20-リアーゼ(CYP17A1)の選択的かつ不可逆的な阻害によるアンドロゲン合成の阻害によるものである。CYP17A1の阻害は、コルチゾールレベルを低下させ、副腎皮質刺激ホルモン分泌の負のフィードバック増加を介してアルドステロン合成を増加させる。このアルドステロンの増加は、低カリウム血症、体液貯留、浮腫を引き起こし、心血管疾患の素因となる。一方、エンザルタミドは、アビラテロンとは異なり、アンドロゲン合成を阻害せず、鉱質コルチコイド過剰を引き起こさない。また、テストステロン値の低下は心血管イベントおよび全死因死亡のリスク上昇と関連することが示唆されており、エンザルタミドによる血清テストステロン値の上昇は心血管イベントの発生率を低下させる可能性がある。
「研究で示されたアビラテロンとエンザルタミドの心血管イベントに関するエビデンスは、前立腺がんの安全な治療につながることが期待される」と、研究グループは述べている。
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・岐阜薬科大学 プレスリリース