認知症をもつ患者のためのACPコミュニケーションスキル研修教材の日本語版を作成
浜松医科大学は8月21日、米国で開発された認知症をもつ患者に対するアドバンス・ケア・プランニングのコミュニケーションスキル研修を、日本のプライマリ・ケア医療者に提供したと発表した。この研究は、同大地域家庭医療学講座の井上真智子特任教授と、米国ノースカロライナ大学のクリスティン・キスラー准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of the American Geriatrics Society」オンライン版に掲載されている。
人生の最終段階で受けたい治療やケアについて、患者本人や家族、医療従事者を含めて話し合いをするプロセスは「アドバンス・ケア・プランニング(ACP)」と呼ばれ、高齢化が進む日本でも社会的な関心が高まっている。しかし、認知症を持つ患者の場合、本人の意向の確認をどのようにしたら良いかについては、あまり検討されていない。
今回の研究では、米国ノースカロライナ大学のクリスティン・キスラー准教授のチームが開発した、認知症をもつ患者のためのACPコミュニケーションスキル研修教材の日本語版を制作し、国内13か所の医療機関で医療者向けの研修を行った。全会場ともキスラー准教授が日本語で研修を進行し、プログラムは認知症の診断とACPのコミュニケーションに関するレクチャー、患者との会話実践例の動画視聴4種類(米国で作成された動画に日本語字幕表示)、ロールプレイ2種類を含む約3時間の内容だった。参加者は、研修の前後でアンケート調査を実施し、実践に対する自信度の変化や、教材の内容を評価した。
研修は日本の医療者9割以上に好評、日本の文化背景への適応が今後の課題
研修は2022年7〜8月に実施し、合計171人の医療従事者が参加した。このうち105人で研修前後の調査結果を比較したところ、患者の意思決定能力の判断方法、ケアの目標設定のコミュニケーション、家族との話し合い方など全ての項目で参加者の自信は向上していた。多くの参加者は、研修教材は効果的だった(96.9%)、時間配分は適切だった(94.5%)、説明は明確だった(89.8%)などの項目に強く同意した。
一方で研修教材が日本の文化背景に適応していたかについては同意率が73.6%とやや低く、日本の診療環境および患者や家族のコミュニケーションスタイルを反映したさらなる改訂が必要なことが示唆された。
認知症患者の意思決定支援への取り組みにつながることに期待
今回使用したACPコミュニケーションスキル研修教材は、日本の医療者に対しても効果的であることがわかった。その後、日本の文化背景を反映した動画を、井上真智子特任教授のチームで制作した。
「キスラー准教授との共同研究は今後も継続する予定で、認知症をもつ方の意思決定支援への取り組みへとつながることが期待される」と、研究グループは述べている。
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・浜松医科大学 プレスリリース