熱中症警戒情報にどのような湿熱指数を用いるのが効果的か
東京大学は8月20日、世界43の国と地域の739都市を対象に、湿熱(湿度と気温)と死亡リスクに関する最大規模の評価を行い、気温に加えて湿度を考慮した湿熱指数は気温単独の場合と比べて、米国の沿岸部や五大湖地域、ペルー、韓国、そして日本において死亡リスクと高い関連を示すことが明らかとなったと発表した。この研究は、同大大学院工学系研究科の沖大幹教授と同大学院医学系研究科の橋爪真弘教授、郭強(GUO Qiang、ゴー・チャン)特任研究員らの研究グループによるもの。研究成果は、「PNAS Nexus」に掲載されている。
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近年、気候変動により熱波の頻度、持続時間、そして深刻度が増加しており、この傾向は将来さらに悪化する可能性がある。その簡便さと観測や予測のしやすさから、多くの国や地域では熱中症および高温警戒情報に気温を予測指標として採用している。しかし、人間が感じる熱ストレスは、気温、湿度、風速、太陽放射など、複数の気候変数によって影響を受ける。近年、湿熱(または人間が感じる熱ストレス)への関心が高まっているが、異なる気候条件の各地域における熱中症警戒情報にどのような気温や湿度に基づく指標(湿熱指数)を用いるのが効果的であるのかについては、依然として分野の異なる研究者の間で意見が分かれており、喫緊の課題となっている。
湿熱指数と夏季死亡リスクの関連を検証、湿熱指数により熱ストレスが高い時期が異なると判明
この問題を探るために、研究グループは、世界43の国と地域、739都市を対象とした、世界最大規模の調査を行った。具体的には、日別死亡データと気象再解析データを利用し、湿球温度(Tw)、湿球黒球温度(WBGT)、熱指数(HI)といった複数の湿熱指数と夏季の日々の死亡リスクとの関連について、各都市で検証を行った。湿熱指数が年間で最も高い10日間を過去40年間にわたり評価した結果、湿熱指数によって熱ストレスが高い時期が異なることがわかった。このことは、熱中症警戒情報の正確性と有効性を高めるために、適切な湿熱指数の選択が極めて重要であることを示唆している。
湿熱指数、中でもWBGTは気温単独の場合と比べ、日本で死亡リスクに強い関連
また、Distributed Lag Non-linear Model(DLNM)を用いて、さまざまな湿熱指数と日々の死亡データとの関連を分析した。さらに、各都市の気候や社会経済的指標と組み合わせることで、異なる湿熱指標の性能に地域差が生じる要因を解析した。
その結果、湿熱指数、中でも湿球黒球温度(WBGT)は、伝統的に指標として広く用いられてきた気温のみに比べて、特に米国の沿岸部や五大湖周辺地域、ペルー、韓国、そして日本において死亡リスクと高い関連を示すことが明らかとなった。これは、これらの地域において気温と湿度の間の相関関係が弱いためであることも明らかとなった。WBGTは、熱中症を予防することを目的として1954年に米国で提案された指標。単位は気温と同じ摂氏度(℃)で示される、その値は気温とは異なる。湿球黒球温度は人体と外気との熱のやりとり(熱収支)に着目した指標で、人体の熱収支に与える影響の大きい湿度、日射・輻射など周辺の熱環境、気温の3つを取り入れた指標である。
「研究成果は、日本においては気温と共に湿度も高い日に熱中症のリスクが高くなり、日本の熱中症警戒アラートで用いられているWBGTが指標として有用であることを支持する強固な科学的裏付けを提示している」と、研究グループは述べている。
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・東京大学 工学部 プレスリリース