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15番染色体重複症候群、余剰染色体除去のアイソジェニックiPS細胞株樹立-CiRAほか

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2024年08月28日 AM09:10

、病態分子メカニズムの詳細は未解明

)は8月21日、自閉症スペクトラム症を来すコピー数多型として頻度の高いヒト染色体15q11.2-13.1重複症候群(Dup15q症候群)患者由来iPS細胞の余剰15番染色体をCRISPR-Cas9によるゲノム編集により除去し、患者細胞と遺伝学的背景が同一のアイソジェニックiPS細胞株を作製したと発表した。この研究は、京都大学CiRA増殖分化機構研究部門の宗實悠佳特定研究員(T-CiRA井上プロジェクト)、今村恵子特定拠点講師(T-CiRA井上プロジェクト)、CiRA臨床応用研究部門の藤本直子特定研究員(T-CiRA堀田プロジェクト)、堀田秋津准教授(T-CiRA堀田プロジェクト)、武田薬品工業株式会社の行武洋サイエンティフィックディレクター(T-CiRA井上プロジェクト)、京都大学CiRA増殖分化機構研究部門の井上治久教授(T-CiRA井上プロジェクト)らの研究グループによるもの。研究成果は、「European Journal of Cell Biology」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

15番染色体重複(Dup15q)症候群は、15番染色体の特定領域(長腕q11.2-13.1)のコピー数が増えることによって、自閉症をはじめとする神経系症状が出現する疾患。Dup15q症候群には、染色体の構造異常として、interstitialタイプ [int(15)]とisodicentric [idic(15)]タイプの2種類があり、前者は重複領域のタンデムコピーが15番染色体内部に存在するのに対し、後者は、重複領域が3番目の独立した小さな余剰染色体として存在する。15番染色体の重複領域には、約30個の遺伝子がコードされており、病態を司る細胞種や責任遺伝子など、Dup15q症候群の病態分子メカニズムはほとんど不明である。Dup15q症候群患者の重複領域コピー数と疾患の重症度を解析した過去の報告からは、両者には明確な相関がないことが示されていた。このことは、染色体の重複に加え、個人の有する遺伝学的背景が、疾患病態に寄与する可能性を示唆していた。そのような疾患において、遺伝子の重複によって出現する変化を見極めるには、遺伝学的バックグラウンドの違いを排除したアイソジェニック細胞が有用なツールになると考えられた。

ゲノム編集でisodicentricタイプの余剰染色体を除去、アイソジェニックiPS細胞株を樹立

研究グループは、CRISPR-Cas9ゲノム編集技術を用いて、isodicentricタイプのDup15q患者由来iPS細胞から、余剰染色体除去を試みた。

余剰染色体除去にあたって研究グループは、過去の文献を参考に、外因性の遺伝子の配列が残留することなく、父方・母方由来の染色体への影響が小さく、また組み替えタンパク質を必要としないなど作業工程が比較的簡便と思われた手法を軸にストラテジーを組み立てた。まず、余剰染色体にピューロマイシン耐性遺伝子並びにチミジンキナーゼ遺伝子をコードする遺伝子カセット(Puro-ΔTK)をCRISPR-Cas9により導入した。次に、細胞の培地中にピューロマイシンを添加し、遺伝子カセットが挿入された細胞のみを選択した。生き残った細胞について、今度は通常培地内で継代を繰り返すことで、細胞分裂時に偶然起きる、染色体の自然脱落現象を誘発した。最後に、培地中にガンシクロビルを添加することで、遺伝子カセットを持たない細胞を選択した。生き残った細胞について、qPCRベースのコピー数解析および核型解析を行い、余剰染色体を失ったアイソジェニック(以下、Dup15q_iso)iPS細胞株の樹立に成功したことを確かめた。CRISPR-Cas9を用いたゲノム編集では、編集過程で生じてしまう「ゲノムの傷」がしばしば問題になる。今回作製したアイソジェニックiPS細胞株の父方・母方由来染色体に傷がついたかどうかを確認するために、本来の目的と異なるCRISPR-Cas9のターゲット領域(オフターゲットサイト)になり得る可能性が高いと予想された11箇所を解析した。その結果、いずれのゲノム領域においても、父方・母方由来の染色体が無傷であったことを確認した。

大脳オルガノイドのグルタミン/GABA作動性ニューロンで神経機能関連遺伝子に変動

次に、研究グループは、作製したアイソジェニック細胞株を用いた解析を実施した。多くの神経発達障害と同様、Dup15q症候群の症状は、乳幼児期から出現するため、神経発達の異常は出生前から生じていることが予想される。研究グループは、Dup15q症候群の病態解明には、発生過程の脳のいくつかの側面を模す大脳オルガノイドが有用なモデルになるのではないかと考えた。そこで、アイソジェニックiPS細胞を用いて大脳オルガノイドを作製し、scRNA-seq解析を実施した。

各細胞種における遺伝子発現変動について調べたところ、Dup15qとDup15q_isoの比較において、グルタミン作動性ニューロンや、GABA作動性ニューロンで神経機能異常に帰着する遺伝子発現変動が起きている可能性があることがわかった。

作製した細胞株、Dup15q症候群の病態解明・創薬研究につながると期待

疾患研究においては、適切な疾患モデルを用いることと、適切な対照を選択することが極めて重要である。疾患発症に、1つの遺伝子の変化が寄与する単一遺伝病とは異なり、Dup15q症候群では、約30個の遺伝子が重複しており、その病態解明には、実験ツールの開発が重要と考えられた。今回の研究において、作製した細胞株は、ゲノム配列が患者由来iPS細胞と同一であることから、疾患解析の対照として用いることにより、遺伝的背景の差の影響を極力抑えた解析ができる。「作製されたiPS細胞ツールは、Dup15q症候群の病態解明とそれに基づく創薬研究に貢献することが期待される」と、研究グループは述べている。

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