母から子へ引き継がれる腸内細菌、妊娠中の発酵食品摂取量と子の神経発達の関連は?
富山大学は8月20日、「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」のデータを用いて、妊娠中の母親の発酵食品の摂取量と、生まれた子どもの3歳時点の神経発達の関連を調べた結果を発表した。この研究は、同大学術研究部医学系小児科学講座の平井宏子医師(現:富山赤十字病院小児科医員)の研究グループによるもの。研究成果は、「PLOS ONE」に掲載されている。
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妊娠中の母親の食事内容が、子どもの発育に影響を与えることは良く知られている。近年、腸脳相関の観点から、腸内細菌そうが宿主の認知機能や情動機能にも関連することが知られてきた。ヒトの腸内細菌そうは、出生時に母親から引き継がれるため、母親の腸内細菌そうは子どもの永続的な腸内細菌そうの構成にも関連することが推測される。腸内細菌そうは、食事や抗菌薬の投与、感染症などで変化することが知られており、発酵食品の摂取も腸内環境の改善に有効とされている。
先行研究より、妊娠中の発酵食品摂取量「多」は1歳時点の神経発達遅めの子の割合「少」
研究グループは、妊娠中に発酵食品を摂取することが、母親や子どもの腸内環境の改善を通じて、子どもの神経発達にも良い影響を与えるのではないかという仮説を立てた。研究グループは先行研究により、妊娠中の発酵食品の摂取量が多いと、子どもの1歳時点での神経発達の遅めの子の割合が少ないという関連を報告している。
子が3歳時点でも関連は見られるか?エコチル調査6.1万組の母子対象に検証
そこで今回の研究では、子どもが3歳になった時点でも関連が見られるかについて、エコチル調査に参加した6万910組の母子を対象に検証した。発酵食品の摂取量は、食物摂取頻度調査票を用いて調べ、摂取量ごとに4群に分類。神経発達は、Ages Stages Questionnaires Third Edition(ASQ-3)を用いて評価し、各年齢のカットオフ値よりも点数が低い場合に発達が遅れていると定義している。ASQ-3は、コミュニケーション、粗大運動、微細運動、問題解決、個人‐社会の5つの項目に分かれており、それぞれを評価した。各発酵食品において、それぞれ最も摂取量が少なかった群を基準(1.0)として、発酵食品の摂取量と子どもの神経発達が遅めの子の発生率を比較した。
発達が遅めになる子の割合、チーズは「少」味噌・ヨーグルトは一部の群で「少」納豆は「関連なし」
その結果、チーズでは全ての群でASQ-3の各項目の神経発達が遅めになる子どもの割合が少ないことが示された。その他の食品では、味噌、ヨーグルトでは、一部の群において発達が遅めになる子どもの割合が少ないことが示されたが、納豆の摂取と発達の遅れには関連が見られなかった。
今回の研究からは、母親の発酵食品の摂取が、子どもの神経発達にも有益な関連をもたらす可能性が示唆された。その理由として、これまでの他の研究成果から、発酵食品の健康効果は、発酵というプロセスを経ることで、元の状態と比較して栄養価が高まることや、腸内細菌そうを改善させることで得られると考えられていることが挙げられる。
今後は便検査による腸内細菌そう変化の調査など、より詳しい調査が必要
腸内細菌そうは、さまざまな微生物が産生する神経伝達物質による直接的な影響や、抗炎症作用により腸管の炎症を抑制するといった機序を介して神経発達に影響を及ぼす可能性があることが報告されている。妊娠中の食事と子どもの発育との関連を調べた報告はある、同研究が示した結果は、過去に報告のないものだとしている。
一方、同研究の限界として、実際に母親や子どもの腸内細菌そうの変化がみられたのか確認できていないこと、今回使用したASQ-3が発達遅滞の診断をするための評価ツールではないことなどが挙げられる。同研究からは、妊娠中にチーズなどの発酵食品を摂取することが、その後の神経発達遅滞を予防するといった直接的な影響を与えるとは結論づけることはできなかった。今後は、実際に便を用いた検査などを行い、腸内細菌そうの変化を調べるなど、発酵食品の摂取と発達についてのより詳しい関連を確認する必要がある、と研究グループは述べている。
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・富山大学 プレスリリース