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宿主から毛髪細菌への栄養供給の証拠発見、世界初の細菌分離で-九大ほか

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2024年08月26日 AM09:00

毛髪からの細菌分離はこれまで報告がなく、適当な分離手法・条件も不明だった

九州大学は8月21日、ヒト頭髪から細菌を分離し、特異な炭素資化性を発見したと発表した。この研究は、同大大学院農学研究院の田代幸寛准教授、大城麦人助教、酒井謙二名誉教授、山田あずさ学術研究員、西悠里大学院生(当時)、野口芽生大学院生ならびに東京農業大学応用生物科学部の渡邉康太助教らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Bioscience and Bioengineering」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

人体はあらゆる部位に多様な微生物叢が形成されており、それらは生息環境に依存して棲息している。しかし毛髪に常在菌が存在する事実は近年発見されたことから、毛髪微生物の研究はいまだ情報が乏しい現状だ。現在では人体-微生物間の共生関係の観点から、毛髪疾患者および健常者の毛髪常在細菌(以下、毛髪細菌)の生態を菌叢解析などDNAを用いた解析手法で解明する報告がいくつかあるが、毛髪細菌の栄養源は不明であり、詳細な評価には毛髪から分離した細菌を使用することが適切だ。さらに毛髪上で高占有率な細菌種の標準株(非毛髪分離株)を用いた研究では、毛根内部で表皮細胞との接触によりヒト細胞の抗老化や延命に関わる遺伝子発現制御に影響を及ぼすことが報告されている。

これまでの評価には標準株が使用されていたが、同研究の毛髪分離菌を利用することで、毛髪環境に適合した細菌がヒトに及ぼす影響を評価できることにつながる。しかし、毛髪からの細菌分離はこれまで報告がなく、適当な分離手法や分離条件も十分ではなかった。

27属63種の細菌分離に成功、富栄養と貧栄養環境を好む細菌種が同程度共存の可能性

研究グループは今回、毛髪細菌を分離するにあたり8種の培地を用いて培地濃度や酸素要求性、ゲル化剤、脂質添加等の培養条件を検討し、24条件で培養を行った。分離手法は被験者18人より採取した毛髪を各固体培地上に静置し培養後、毛髪周辺のコロニーを採取し2回の純化を経てDNA抽出後に細菌種の同定を行った。

これらの操作により、24条件から27属63種の細菌を分離することに成功した。獲得した各細菌種の好む環境に関しては、希釈条件と非希釈条件における獲得毛髪分離菌数が各16種であったことから、富栄養と貧栄養環境を好む細菌種が同程度共存することを示唆しており、皮膚上では富栄養を好む細菌が多いことから、毛髪環境の特異性を示唆する結果となった。

毛髪細菌の生育嗜好性に脂質が関与、易分離微生物と優占細菌は異なることを示唆

また脂質添加および無添加条件では、両条件共通して3種、添加条件のみから10種、無添加条件のみから4種の細菌が獲得された。特に全24条件のうち脂質添加時のみで3種が分離されたことから、毛髪細菌の生育嗜好性に脂質が関与することを示唆した。加えて、全分離菌の獲得傾向が細菌種により異なることを発見した。そして頻繁に分離可能な細菌種を易分離微生物(≧25%)、少ない培養条件でのみ分離された細菌種を難分離微生物(≦25%)と定義し、細菌種の分離可能性を初めて定量的に示した。また、同研究室で実施された菌叢解析の結果と照合すると、毛髪細菌の占有率と同研究による獲得細菌の相関がないことが示され、易分離微生物と優占細菌は異なることが示唆された。

さらに、獲得した毛髪分離菌から優占細菌種5種(C. acnes subsp. defendens, C. acnes subsp. acnes,Staphylococcus epidermidis, S. caprae, Micrococcus luteus)を選択し50種類の炭素資化性を評価した結果、汗に含まれるグルコースや皮脂の分解物であるグリセロールだけでなくヘアケア化粧品に保湿剤として広く含有されているマンニトールの資化性を示した。特に、標準株と異なる資化性を示した結果として、M. luteus毛髪分離株はグルコースの、C. acnes subsp. defendens, C. acnes subsp. acnes毛髪分離株はマンニトールの資化性を有することから、毛髪環境で棲息に有利な資化性を獲得した可能性が考えられる。

毛髪細菌が人体に及ぼす影響の理解や難治療性毛髪疾患の創薬開発につながることに期待

今回の研究により、毛髪からの細菌分離が可能であり、多様な分離細菌内で占有率とは異なる分離可能性が示された。また、標準株と分離菌の資化性が一部異なると示されたことから、近年盛んな非培養法による代謝予想だけでなく培養法を用いた特性評価の重要性が浮き彫りとなった。今後は、獲得した毛髪分離菌を用いて表皮細胞への添加試験を行い、ヒト細胞の遺伝子発現制御に対して標準株と分離株を比較することで、毛髪細菌が人体に及ぼす影響の理解につながることが期待される。

「本研究による毛髪細菌分離手法や毛髪分離菌は、健常な育毛に影響する毛髪細菌種の情報蓄積に活用され、将来特定の細菌種を調整するヘアケア化粧品の開発や、難治療性毛髪疾患の創薬開発につながることを期待している」と、研究グループは述べている。

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