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なつかしさの感情がポジティブな人は社会的つながりを強く感じていると判明-京大

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2024年08月23日 AM09:00

「なつかしさ」の感情が、発達課題の達成に影響を与える?

京都大学は8月16日、なつかしい記憶をポジティブに感じることは「心理的適応」につながることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大教育学研究科の楠見孝教授、豊島彩同研究員(現:島根大学講師)の研究グループによるもの。研究成果は、「The International Journal of Aging and Human Development」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

エリクソンの発達課題理論では、人生を8つの発達段階に分け、各段階には発達課題が設定されている。成人期以降の発達課題では、壮年期の世代性と老年期の統合が設定されている。これらは高齢期の幸福感と正の相関があり、発達課題の達成は高齢期の心理的適応に関連すると考えられている。世代性は「次世代を確立し、導くことへの関心」とされ、壮年期は若い世代を育成することに興味関心が高まる年代とされている。老年期では個人が自分の人生を振り返り、満足感や後悔を感じることがある。過去を受け入れ、現在と統合できると人生の意味を見出して知恵を感じることができるが、そうでない場合は絶望を感じると考えられている。

一方、なつかしさ感情の研究では、高齢になるほど過去のなつかしい記憶を思い出した時にポジティブな感情を伴いやすくなることが報告されている。なつかしい記憶の中には思い出すと悲しい気持ちになるものもあるが、高齢になるほどネガティブ感情を伴う傾向も弱くなるとされている。なつかしさ感情には社会的結びつきや人生の意味を感じさせるなどの心理的機能があることがわかっており、それらが発達課題の達成に影響を与えていると考えられる。

なつかしい記憶の「ポジティブ感情」が、社会的つながりを強く感じさせると判明

研究グループは今回、「なつかしさのポジティブ傾向性の高さ、またはネガティブ傾向性の低さは、その後の発達課題(世代性・統合)の達成度を高める」という仮説を検証した。国内に居住する成人600人を対象にインターネット調査を2回実施し、1回目の調査の状態が1年後に実施した2回目の調査の状態に及ぼす影響について解析した。この際、1回目の心理状態や年齢、性別といった交絡要因の影響を加味して、因果的な影響を検証する手法を用いた。

解析の結果、1回目の調査時のポジティブ傾向性の高さ、およびネガティブ傾向性の低さは、2回目の調査の統合の高さを予測することが判明した。さらに、なつかしさの機能とされる「社会的結びつき」「自己の時間的連続性」「人生の意味」「自己の明確化」との関連を解析した。その結果、なつかしさのポジティブ傾向性は4つの機能全てと関連が見られたが、統合に影響を与えていたのは社会的つながりだった。このことから、なつかしい記憶を思い出すとき、ポジティブ感情が高まる傾向は社会的つながりを強く感じさせ、その結果、統合が高まることが示された。また、なつかしさのネガティブ傾向性の低さも社会的つながりの感じやすさと関連しており、同様の効果が確認された。

世代性がなつかしさのポジティブ・ネガティブ傾向性を予測

世代性については、1回目の調査時の世代性が2回目の調査のなつかしさのポジティブ傾向性の高さとネガティブ傾向性の低さを予測しており、仮説とは逆の結果が得られた。

回想法の仕組みの理解や、広い世代へのアプローチにつながることに期待

高齢者を対象とした心理療法の中には、回想法と呼ばれるなつかしさ感情による心理的効果を用いたものがある。今回の研究成果は、回想法の仕組みの理解を深めることに貢献することが期待される。さらに、高齢者以外の若い世代でも同様の傾向が確認されたため、回想法によるアプローチが高齢期以外の世代にも広まる可能性を示している。

「壮年期の発達課題である世代性については、因果関係の方向が想定と逆の結果となった。この結果からは直接解釈できないが、世代性が高くなると過去のなつかしい思い出を、よりポジティブに捉えるようになることも考えられる。今後、なぜこのような結果が得られたのか、さらに踏み込んでいきたい」と研究グループは述べている。

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