新たなバイオマテリアル、動物実験で膝軟骨再生を可能に
新たに開発されたバイオマテリアル(生体材料)が新しい軟骨の成長を促し、手足の自由を奪う関節炎の治療に役立つ可能性のあることが、米ノースウェスタン大学材料科学・工学教授のSamuel Stupp氏らによる動物を用いた研究で示された。詳細は、「Proceedings of the National Academy of Sciences(PNAS)」に8月6日掲載された。
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Stupp氏らが報告したバイオマテリアルは、粘性の高いゴムのようなものに見えるが、実際には体内の軟骨に似せて作られたものだ。具体的には、軟骨の成長と維持に不可欠なタンパク質であるTGF-β1(形質転換増殖因子β1)に結合する生理活性ペプチドと、化学的に修飾したヒアルロン酸を組み合わせて、ナノスケールの繊維が束状に自己組織化されるようにしたものだ。Stupp氏らは、「ヒアルロン酸は多くのスキンケア製品に使われているためよく知られているが、関節や脳など人体のさまざまな組織に含まれている。われわれは、軟骨の中に存在しているポリマーに似ているという理由からヒアルロン酸を選んだ」と説明。その目的は、身体の細胞が軟骨組織を再生するための足場を作ることであったという。
Stupp氏らは人間の膝に似たヒツジの後肢の複雑な関節である後膝関節にこのバイオマテリアルを注入する実験を行った。ヒツジの軟骨は人間の膝と同様、自己修復能力が乏しい。また、ヒツジの後ろ足の膝関節と人間の膝関節はサイズがよく似ており、体重負荷や機械的負荷も同程度であるという。
このバイオマテリアルを用いることで、ヒツジの膝関節において6カ月以内に質の高い軟骨の再生が促されることが確認された。新たに形成された軟骨は、既存の膝関節の軟骨の欠損を埋めるように成長し、質の高い状態で保たれていたという。
Stupp氏らは、この新たなバイオマテリアルを、骨と骨を隔てる軟骨がすり減り、骨同士がこすれ合って起こる変形性膝関節症の治療に使える可能性があるとの期待を示している。つまり、このバイオマテリアルは、現在、重度の変形性膝関節症の治療で行われている人工膝関節置換術を時代遅れにする可能性があるということだ。人工膝関節置換術では、骨の端を切り取ってチタンに置き換え、軟骨をプラスチックに置き換える。
Stupp氏は「軟骨は関節の重要な構成要素だ。時間の経過とともに軟骨が傷ついたり、うまく機能しなくなったりすると、人々の健康状態や運動能力に大きな影響を及ぼす」と話す。さらに同氏は、「問題は、人間の成人の軟骨には治癒能力が備わっていないことだ。われわれの新しい治療法は、自然には再生しない組織の修復を誘導することができる。この治療法は深刻なアンメット・クリニカル・ニーズの解決に役立つと、われわれは考えている」と述べている。
今後このバイオマテリアルの効果が人間でも確認されれば、「動作能力の低下と関節痛の問題が長期にわたって解消すると同時に、大きな金属の部品を使った関節の再建手術を回避できる可能性がある」とStupp氏は話している。
▼外部リンク
・A bioactive supramolecular and covalent polymer scaffold for cartilage repair in a sheep model
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