ヒトに毒性を示さず、真菌のみ制圧の治療薬開発は困難
東京医科大学は8月21日、病原真菌に対して治療薬を効率よく送達できるドラッグデリバリーシステム(DDS)の開発に成功したと発表した。この研究は、同大微生物学分野の中村茂樹主任教授、犬飼達也助教ら、東京大学大学院工学系研究科のカブラルオラシオ博士らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Drug Delivery Science and Technology」に掲載されている。
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真菌が内臓に感染する深在性真菌症は、極めて予後不良な重症感染症だ。一方、現在使用できる治療薬は10種類以下と抗菌薬に比べ圧倒的に少なく、さらに既存抗真菌薬に耐性を獲得した真菌の出現が日本を含め、世界中で確認されていつ。目覚ましい医療の発展に伴う易感染宿主の増加に伴い、近年では深在性真菌症の患者が増加しており、より効果の高い新規抗真菌薬の開発が喫緊の課題だ。しかし、真菌という生物種がヒトと同じ真核生物であることから、ヒトに毒性を示さず、真菌のみを制圧する治療薬の開発は困難であり、新薬開発が停滞している。
真菌標的のデクチン-1搭載DDSデバイス、真菌に強く結合
今回の研究では、真菌を標的とするデクチン-1受容体をポリエチレングリコールポリアミノ酸ブロック共重合体に結合させたDDSデバイスを作製し、蛍光標識や金コロイド標識を施した後、デクチン-1結合有無によるDDSデバイスの真菌の細胞壁への特異的な集積を共焦点レーザー顕微鏡もしくは電子顕微鏡下で確認した。次に、真菌標的型DDSデバイスを真菌-哺乳細胞共培養系に投与した結果、真菌に強く結合することが明らかとった。今回の研究では、深在性真菌症の原因真菌として多く検出され、臨床的重要度の高いAspergillus fumigatusを使用している。
開発したDDSデバイスに抗真菌薬を充填、72時間後に抗真菌活性亢進&毒性軽減
開発した真菌標的型DDSデバイスに既存抗真菌薬アムホテリシンBを充填し、真菌に対する抗真菌活性を評価した。投与後48時間ではアムホテリシン単独と比較して抗真菌活性に変化は認められなかったが、72時間後では抗真菌活性の亢進が確認された。
次に、真菌標的型DDSデバイスに充填したアムホテリシンBの細胞毒性を検討。細胞毒性は、A549細胞への添加から12時間後に細胞から放出されるLDH量で評価した。A549細胞単独および真菌との共培養条件下で20 μg/mLのアムホテリシンBを投与後、有意なLDHの放出が確認された。対照的に、DDSデバイスに充填したアムホテリシンB 20μg/mLで投与した場合では、A549細胞単独および真菌-培養細胞共培養条件下の両方でLDHの放出は観察されなかった。
真菌感染カイコモデルで、抗真菌薬単独より低濃度の生存率向上を確認
最後に、真菌感染カイコモデルを用いた治療実験を行った。DDSデバイスを利用した真菌標的型 DDSアムホテリシンBは、アムホテリシンB単独よりも低濃度で生存率の有意な向上が確認された。
今回の研究で開発した真菌標的型DDSデバイスの使用により、既存薬または新規抗真菌薬の有効性・安全性を向上させることができ、深在性真菌症の治療成績の改善が期待される。さらにDDSデバイスは修飾の柔軟性を有していることから、今回搭載したデクチン-1分子を他の病原体抗原特異的分子に変更することで、真菌以外の病原体をターゲットとするDDSデバイスが創出でき、様々な感染症治療への応用が期待される、と研究グループは述べている。
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