医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > 機能性ディスペプシア合併喘息の病態にIL-33が関連、治療標的として有望-名古屋市大

機能性ディスペプシア合併喘息の病態にIL-33が関連、治療標的として有望-名古屋市大

読了時間:約 3分29秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2024年08月22日 AM09:10

/FD相互メカニズムの解明は、喘息の気道神経機能不全理解を深めるために重要

名古屋市立大学は8月15日、喘息と機能性ディスペプシア(Functional dyspepsia:FD)合併喘息患者を対象とした臨床研究と喘息モデル動物を用いた解析を組み合わせて、FD合併喘息患者の特徴・咳感受性とFDとの関連を初めて明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科の伊藤圭馬助教、金光禎寛講師、新実彰男教授(呼吸器・免疫アレルギー内科学)、植田高史准教授、鵜川眞也教授(機能組織学)、神谷武教授(次世代医療開発学)、久保田英嗣准教授(消化器・代謝内科学)らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Allergy and Clinical Immunology」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

研究グループは、過去の喘息患者データベースを用いた先行研究で、重症喘息患者の約30%にFDが合併しており、FD合併喘息では非合併喘息と比べ、吸入カプサイシンによる咳反応(以下、カプサイシン咳感受性)が亢進していることを明らかにした。カプサイシン咳感受性の亢進は、主に気道の知覚神経に発現するカプサイシン受容体transient receptor potential vanilloid type 1(TRPV1)を介した神経機能不全を反映している。つまり、この知見は、FDは喘息における気道神経機能不全を示唆する併存疾患であり、両疾患が神経機能不全という共通病態を介して相互に関連している可能性を示唆している。咳感受性の亢進は、喘息コントロールの悪化や増悪と関連し、気道炎症や気流制限とともに喘息の重要な病態生理であるため、喘息とFDとの相互メカニズムを明らかにすることは、喘息における気道神経機能不全の理解を深めるために重要だ。

FD合併例は非合併例より喘息コントロール悪く、咳が重度、カプサイシン咳感受性が亢進

研究グループはまず、FD合併喘息(15人)と非合併喘息(35人)の間でカプサイシン咳感受性を含む臨床指標を比較した。FD合併例は非合併例よりも喘息コントロールが悪く、咳が重度で、カプサイシン咳感受性が亢進していた。さらに、患者報告アウトカムを用いて評価したFD症状と咳症状、FD症状とカプサイシン咳感受性との間に有意な相関関係を認めた。

気道神経の構造的・機能的変化が消化管運動機能不全と関連

次に、喘息モデルマウスを用いて、好酸球性気道炎症下において消化管の運動機能に変化が起きるかを検証。パパインによって誘導した気道炎症モデルマウスでは、胃排泄能の遅延、小腸輸送能の低下を認めた。消化管(胃や十二指腸)には組織学的変化や炎症性変化は認められなかった一方で、気道においては、肺組織中IL-33遺伝子の発現上昇、気管支肺胞洗浄液中IL-33濃度の上昇、気道神経線維の増生(リモデリング)が生じていた。また、これら消化管、肺での変化は抗IL-33抗体の全身投与で改善し、ナトリウムチャネル阻害薬QX-314の経鼻投与でも改善した。これらの結果から、気道炎症によって引き起こされる気道神経の構造的・機能的変化が、消化管運動機能不全と関連することが示唆され、IL-33が両病態の相互作用において重要な役割を果たしている可能性が示唆された。

カプサイシン咳感受性亢進例・FD合併例、喀痰中IL-33濃度が有意に上昇

最後に、前述の喘息患者50人のうち、誘発喀痰を採取できた42人(FD合併患者12人、FD非合併患者30人)の誘発喀痰上清中IL-33濃度を測定した。その結果、カプサイシン咳感受性亢進例、FD合併例ではそれぞれ対照群と比べ、喀痰中IL-33濃度が有意に上昇していた。また、喀痰中IL-33濃度はカプサイシン咳感受性・FD症状との間に有意な相関関係を認めた。すなわち、喘息に併存するFDは気道神経機能不全を示唆する重要な肺外徴候であり、気道炎症におけるIL-33を介した経路(IL-33パスウェイ)が、神経機能不全の発症に重要な役割を果たしている可能性が示唆された。

喘息の気道神経機能不全への治療戦略となることを示唆

これまでの喘息研究は免疫系からのアプローチが主軸だった。しかし、近年、気道の神経機能不全が関わる喘息表現型(フェノタイプ)の存在が示唆され、免疫-神経クロストークの重要性が注目されている。喘息患者の咳症状や咳感受性は、喘息のコントロールや増悪に寄与するためその制御は喘息診療における大きな課題だ。また、咳は医療機関を受診する最も頻度の高い症状であり、日常生活や社会経済活動に及ぼす負のインパクトは予想以上に大きいものだ。喘息、胃食道逆流症に加え、FDも長引く咳の原因となるが、日常診療で咳や咳感受性を評価する方法は十分に確立されておらず、喘息における気道神経機能不全に対する病態の理解や治療法も不明な点が多く残されている。

今回の研究は、臨床研究で示された喘息とFDの病態に共通する神経機能不全に着目し、基礎研究により両者の病態に関連する機序を明らかにした。FDが喘息における気道神経機能不全と有意に関連し、気道のIL-33がこの相互作用において重要な役割を果たしていることから、IL-33が介在する気道神経機能不全は、FDを併存する喘息患者におけるカプサイシン咳感受性の亢進と消化管運動機能不全の発症に寄与している可能性が考えられる。これらの知見は、喘息の管理において肺-消化管クロストークの重要性を認識し、IL-33パスウェイを治療標的として意識することが、この喘息患者フェノタイプにおける気道神経機能不全に対する有望な治療戦略となり得ることを示唆している、と研究グループは述べている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 前立腺がん、治療決定時SDMが患者の治療後「後悔」低減に関連-北大
  • 糖尿病管理に有効な「唾液グリコアルブミン検査法」を確立-東大病院ほか
  • 3年後の牛乳アレルギー耐性獲得率を予測するモデルを開発-成育医療センター
  • 小児急性リンパ性白血病の標準治療確立、臨床試験で最高水準の生存率-東大ほか
  • HPSの人はストレスを感じやすいが、周囲と「協調」して仕事ができると判明-阪大