生涯にわたり腫瘍発症リスク高いDICER1症候群、病態や発症機序は不明点多い
東京医科大学は8月15日、DICER1症候群における嚢胞性腫瘍の発症メカニズムを明らかにしたと発表した。この研究は、同大分子病理学分野の黒田雅彦主任教授、大野慎一郎講師、老川桂生氏(研究当時:大学院医学研究科博士課程)らの研究グループによるもの。研究成果は、「The Journal of Pathology」に掲載されている。
近年、次世代シーケンサーの普及により、希少疾患においても遺伝子変異解析がされるようになった結果、DICER1遺伝子の変異が家族性胸膜肺芽腫の主因であることが2009年に発見された。その後、多くの小児がんを含む希少疾患(松果体芽腫、下垂体芽腫、毛様体髄上皮腫、鼻腔軟骨中皮性過誤腫、多結節性甲状腺嚢胞、甲状腺がん、腎肉腫、ウィルムス腫瘍、嚢胞性肝腫瘍、卵巣セルトリ・ライディッヒ腫瘍、胎児型横紋筋肉腫など30種類以上の希少腫瘍が含まれる)において特徴的なDICER1遺伝子変異が検出され、DICER1症候群(DICER1遺伝子変異を原因とする腫瘍素因症候群)という分類が確立した。
DICER1は、microRNA(miRNA)と呼ばれる、20〜25塩基ほどの短い1本鎖RNAを生成するRNA切断酵素である。DICER1遺伝子に変異が入ると、miRNAの発現に異常が発生し、結果的にDICER1症候群を発症すると考えられている。2018年に米国国立がん研究所(NCI)から発表されたDICER1症候群に関する疫学調査によって、DICER1遺伝子の遺伝性の病的バリアントの保有率は約1万人に1人も存在することが明らかとなった。一方で、DICER1症候群の研究報告はまだ少なく、病態および発症機序は不明な点が多い。従って、乳幼児期から生涯にわたり高い腫瘍発症リスクにさらされるDICER1症候群の病態解明、治療法の開発は急務であり、そのために必要な実験動物モデルの開発は重要である。
DICER1症候群モデルマウス開発、嚢胞性肝腫瘍の発症を確認
DICER1症候群患者組織では、DICER1遺伝子に遺伝性と体細胞性の2つの変異がある。今回の研究では、この特徴的な2つの遺伝子変異を肝臓特異的に再現するマウスを作製した。その結果、DICER1症候群に含まれる嚢胞性肝腫瘍を発症した。
胆管上皮の一次繊毛と関連遺伝子において異常を発見
肝嚢胞は、一次繊毛の異常によって発症することが知られているため、胆管上皮に発現する一次繊毛の解析を行ったところ、DICER1症候群モデルマウスの肝臓では、一次繊毛の形成異常と関連遺伝子であるPKD1およびPRKCSHの有意な発現低下が明らかとなった。
DICER1症候群に含まれる希少腫瘍には、嚢胞性腫瘍が多く含まれていることから、臓器の枠を超えた嚢胞性腫瘍の発症は、DICER1症候群の特徴の一つである。今回の研究ではその一端が解明されたが、他の臓器・組織については今後の研究課題である。
DICER1症候群の全容解明と治療薬開発の発展に期待
DICER1症候群は、多様な臓器で腫瘍を発症する特徴を有する。「本研究で作製されたDICER1症候群モデルマウスは、肝臓以外の臓器における疾患モデルの構築にも応用することが可能であり、今後はDICER1症候群の全容解明および治療薬の開発に発展することが期待される」と、研究グループは述べている。
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