東アジアに多い「やせ型糖尿病」、モデル動物は作られていなかった
理化学研究所(理研)は8月12日、ハムスターの遺伝子を改変することにより、やせ型糖尿病モデル動物の開発に成功したと発表した。この研究は、理研バイオリソース研究センター遺伝工学基盤技術室の廣瀬美智子テクニカルスタッフII、小倉淳郎室長、マウス表現型解析技術室の田村勝室長、京都大学大学院医学研究科糖尿病・内分泌・栄養内科学の村上隆亮助教、稲垣暢也名誉教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」にオンライン掲載されている。
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糖尿病は、全世界で増え続けている全身性の疾患で、その合併症により多くの人命が失われている。日本でも予備軍含めて推計国内患者2000万人以上が罹患しているとされ、その多くが腎不全に移行し、人工透析治療が必要になる。糖尿病には1型と2型があり、2型糖尿病は食生活などの環境因子と体質(遺伝)の組み合わせで起こる最も一般的な糖尿病である。西欧では肥満型の2型糖尿病が多い一方で、日本を含む東アジアではやせ型の2型糖尿病が多数を占めることが知られている。
2型糖尿病の発症機構の解明と治療方法の開発には、糖尿病モデル動物の使用は欠かせない。これまで糖尿病モデル動物の多くは、肥満型の糖尿病モデル動物であったため、日本を含む東アジアに多いやせ型糖尿病の研究に適切なモデル動物はいなかった。
i-GONAD法用いIRS2のKOハムスター作出、ホモ型KO個体はHbA1c有意に高値
インスリンの細胞内伝達調節因子であるIRS2(インスリン受容体基質タンパク質2)は、糖尿病の関連因子の一つとして知られている。そこで、研究グループは、糖代謝がヒトに類似しているといわれているゴールデンハムスターを用いて、IRS2ノックアウト(KO)ハムスターを作出し、糖尿病モデル動物の開発を試みた。
研究グループは、卵管内ゲノム編集法(i-GONAD法)を用いてIRS2 KOハムスターの作出を試みた。その結果、1匹のKOハムスターの作出に成功し、そのKO個体を用いた交配によりIRS2 KO系統を樹立した。ホモ型KOハムスターは、ヘテロ型KOおよび野生型ハムスターに比べ、生後から継続的に低体重を示した。またホモ型KOハムスターは、血糖値および過去1〜2か月の血糖値を反映するといわれているHbA1cが野生型に比べて有意に高くなっていた。
ホモ型KOハムスター、膵臓β細胞の機能が不十分であることを示唆
さらに、体内のグルコース(ブドウ糖)代謝を見るために3つの体内グルコース代謝試験を行った。まずグルコース負荷試験を行うと、ホモ型KOハムスターはヘテロ型KOや野生型ハムスターに比べ血中のグルコース値の上昇が有意に高くなり、ブドウ糖を投与してから120分後まで高値で推移した。一方、インスリン耐性試験では、ホモ型KOハムスターはインスリン投与に対して正常に反応した。グルコース投与によるインスリン分泌試験では、ホモ型KOハムスターはインスリンレベルが上昇しないことがわかった。これらの結果から、ホモ型KOハムスターではインスリンを分泌する膵臓β細胞の機能が不十分であることが示唆された。
膵島小さく、インスリン分泌量有意に低いと判明
そこで、組織免疫染色でインスリンを分泌する膵臓β細胞を調べると、ホモ型KOハムスターではインスリン陽性細胞の相対的面積が有意に減少しており、β細胞を含む膵島もヘテロ型KOハムスターに比べ小さくなっていた。
最後に膵臓から膵島を分離し、インスリン分泌試験を行った。ホモ型KOハムスターの膵島当たりのインスリン分泌量は有意に低く、インスリン含有量も低いことがわかった。また、ホモ型KOハムスターでは膵島細胞当たりのインスリン分泌量とインスリン含有量も低下していた。これらの結果は、ホモ型KOハムスターのβ細胞機能不全を示すものであり、体内グルコース代謝試験の結果を裏付けている。
信頼性高い実験が実施可能、さらに研究開発に適したモデルへの改良に期待
今回作出されたやせ型糖尿病モデルハムスターは、一つの遺伝子機能が失われているだけであるため、野生型ハムスターを実験対照(コントロール)として用いることで、信頼性の高い実験が実施可能である。このモデルの欠点として、胎児の時から全身で遺伝子機能が欠損しているために、出生前後に死んでしまう個体が多いということがある。「今後、遺伝子改変の工夫により発症を遅らせたり、遺伝子機能の欠損を特定の臓器に限定したりすることで、さらに研究開発に適した糖尿病モデルに改良されることが期待される」と、研究グループは述べている。
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・理化学研究所 プレスリリース