高齢者専門大学病院でのサルコペニアの実態は不明だった
順天堂大学は8月9日、高齢者専門大学病院(同大医学部附属順天堂東京江東高齢者医療センター)における多職種による高齢者のサルコペニアの実態調査を初めて実施し、サルコペニアの有病率は21.4%と一般の地域住民を対象とした過去の研究の有病率(約14%)より高く、高齢者サルコペニア患者では食品摂取の多様性が低下していることなどがわかったと発表した。この研究は、同センター消化器内科の浅岡大介教授、 呼吸器内科の菅野康二准教授、松野圭准教授、 循環器内科の宮内克己特任教授らのグループによるもの。研究成果は「Biomedical Reports」のオンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
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サルコペニアは加齢による筋肉量の減少および筋力の低下のことを指す。サルコペニアによる筋肉量低下は寝たきり・要介護や死亡等の生命予後と密接に関連しており、人生100年時代・超高齢社会の日本において健康長寿を妨げる一因となっており、サルコペニア予防は喫緊の課題となっている。日本におけるサルコペニアの疫学では、一般の地域住民を対象とした過去の研究で、約14%前後(7~22%)と報告されているが、高齢者専門大学病院における高齢者のサルコペニアの実態は不明であり、多職種によるサルコペニアに関する多岐にわたる実態調査は少ない。
同センターは、長寿いきいきサポート外来を開設し、各内科疾患のみならず、フレイル・サルコペニア・認知症・骨粗鬆症診療も合わせて行い、高齢者をトータルマネージメントすることにより健康長寿を目指す施設である。
65歳以上の1,042人対象、患者背景・栄養・骨密度・生理機能などを調査
研究グループは今回、アジアにおける最新のサルコペニア診断基準AWGS2019を用いて、高齢者専門大学病院における多職種によるサルコペニアの有病率ならびにサルコペニアのリスク因子を横断研究で検討することを目的に調査を行った。対象者は、同センター内科外来を受診した65歳以上の高齢者で自立歩行可能(杖歩行含む)である男性458例、女性584例の計1,042人(平均年齢78.2±6.1歳、平均BMI22.9±3.9)だった。
調査項目は、1)医師による患者背景問診、2)薬剤師による内服薬(お薬手帳)、3)看護師・心理士による質問票、4)栄養士による栄養評価、5)看護師による身体測定、6)放射線科技師による骨格筋量・骨密度測定、7)臨床検査技師による生理機能検査、とし、高齢者サルコペニアの有病率ならびに、リスク因子の検討(単変量・多重ロジスティック解析)を行った。
AWGS2019では、 「1.握力低下:男性<28kg、女性<18kg」「2.歩行速度低下:<1.0m/sec」「3.筋肉量の測定でDXA法による骨格筋量指数(SMI)の低下:男性<7.0kg/m2、女性<5.4kg/m2」で、1か2、または両者該当し、かつ、3に該当することが診断基準となる。
単施設での有病率は21.4%、80代男性で有病率が急増
その結果、全体(n=1,042)におけるサルコペニア有病率は21.4%(1,042例中223例)であり、年齢が上昇するにつれて、特に80代以降で増加し、女性と比べて男性では80代以降で有病率が急増することが明らかとなった。日本におけるサルコペニアの疫学では、一般の地域住民を対象とした過去の研究では、約14%前後(7~22%)と報告されているが、今回の検討では一般地域住民の有病率より高かった。
総薬剤数が多く、食品摂取多様性が低いなどのリスク要因が判明
さらに研究グループは、高齢者サルコペニア患者のリスク因子について検討 (単変量解析)した。その結果、サルコペニア患者は非サルコペニア患者と比べて、高齢で、男性に多く、BMIは低値であった。また、併存疾患としては、脳梗塞/脳出血・心筋梗塞・心不全入院歴(+)・悪性腫瘍・糖尿病を有する症例に多く認めた。
この他、抗認知症薬内服例が多く、総薬剤数が多いこと、認知機能(MMSE)が低く、うつのスコアが高値、拘束性換気障害が多く、位相角が高値であることも確認された。さらに、栄養評価では、食品摂取多様性が低く、CONUTスコア(数値が高いと低栄養)が高く、便秘重症度が高く、胸やけスコアや嚥下機能や簡易QOL評価が低く、オーラルフレイル・転倒歴・デイケア利用歴が高かった。
多重ロジスティック解析も実施したところ、サルコペニア患者は、食品摂取の多様性低下、高齢の男性に多く、Brinkman Index・位相角が高値で、デイケア利用(+)・糖尿病(+)・骨粗鬆症(+)症例と関連していた。また、BMI・QOL・認知機能(MMSE)は低値だった。
「今後、研究での知見をもとに、高齢者の健康寿命延伸を目標に、精力的に臨床・研究をすすめていきたい」と、研究グループは述べている。
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