医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > 抗PD-1抗体+メトホルミンで腫瘍血管正常化、抗腫瘍効果改善の可能性-岡山大ほか

抗PD-1抗体+メトホルミンで腫瘍血管正常化、抗腫瘍効果改善の可能性-岡山大ほか

読了時間:約 2分59秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2024年08月16日 AM09:10

CD8T細胞侵入ブロックの腫瘍血管、いかに正常化できるか?

岡山大学は7月30日、糖尿病治療薬メトホルミンと抗PD-1抗体の併用療法について、腫瘍浸潤CD8T細胞(CD8TILs)を強力に活性化してインターフェロンγ(IFNγ)を産生し、IFNγが異常な腫瘍血管を正常化してCD8T細胞のさらなる腫瘍内流入を促進することを明らかにしたと発表した。この研究は、同大学術研究院医歯薬学域(医)免疫学の鵜殿平一郎教授、徳増美穂助教、西田充香子助教ら、金沢大学の内藤尚道教授、北海道大学の樋田京子教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Proceeding of the National Academy of Sciences USA」電子版で掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

がんの免疫治療では、、抗PD-L1抗体、抗CTLA4抗体などの免疫チェックポイント阻害薬が臨床の現場で使用されている。これらの抗体医薬は、固形がんの中で免疫疲弊したCD8T細胞の機能と増殖能を回復し、再びがん細胞を攻撃できる状態に戻す働きを有する。一方で、がん細胞を殺傷できるCD8T細胞が末梢血液中に存在する場合も、腫瘍血管内から血管外へ出てがん組織の中へ入っていくことができなければ全く意味がない。しかし、腫瘍血管は正常血管とは全く性状が異なっており、CD8T細胞の血管外への侵入をブロックしている。この異常な腫瘍血管をいかに正常化できるか、という問題がクローズアップされている。

抗PD-1抗体+メトホルミンで治療効果改善、IFNγ産生CD8T細胞「増」をマウスで確認

マウス腫瘍モデルでの抗PD-1抗体による治療効果は、メトホルミンを加えた併用治療により大幅に改善されること、この併用治療では抗PD-1抗体単独治療に比べてIFNγを産生するCD8T細胞の著しい増殖が認められることを先行研究により報告している。

併用治療で腫瘍血管内皮細胞VE-カドヘリン・VCAM-1発現促進、周皮細胞数「増」

今回の研究では、同併用治療が腫瘍血管内皮細胞のVE-カドヘリン、VCAM-1の発現を促し、かつ、血管を取り巻く周皮細胞の数を増加させることを見出した。VE-カドヘリン増加は血管内皮細胞相互の結合強化をもたらし、液体成分が漏れないように血管壁を整えていた。周皮細胞の増加は血管壁に弾力性をもたらし、血液灌流を大幅に改善した。さらに、腫瘍浸潤CD8T細胞(CD8TILs)の数は併用治療群で優位に上昇した。VCAM-1分子は、活性化CD8T細胞ががん組織内に侵入するために必要な足場として機能することが知られている。

併用療法<CD8T細胞がIFNγ分泌<腫瘍血管正常化

以上の変化は、併用治療により腫瘍血管の正常化が起きたことを示している。VE-カドヘリン、VCAM-1の発現上昇は、抗CD8抗体投与によるCD8T細胞の除去、あるいは、抗IFNγ抗体投与によるIFNγの中和により完全に消失した。CD8TILsの増加もIFNγの中和により完全に消失した。すなわち、併用治療による腫瘍血管正常化はCD8T細胞の分泌するIFNγによってもたらされると結論づけられた。

ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)をIFNγまたはメトホルミンと共培養すると、VE-カドヘリンおよびVCAM-1の発現上昇が見られ、IFNγとメトホルミンを同時に添加することで相乗的な発現上昇が見られた。これは腫瘍血管内皮細胞で観察された実験結果と符合する結果だった。一連の実験結果とこれまでの学説とを総合すると、抗PD-1抗体とメトホルミンの併用療法はCD8T細胞をまず活性化し、産生されたIFNγを介して血管内皮細胞のVCAM-1発現を促進することでCD8T細胞の接着を促し、同時に血管壁に小孔の形成(open gate)を誘導してCD8T細胞の血管内から血管外への移動を可能にする。移動が完了するとVE-カドヘリンによる血管内皮細胞の連結が速やかに起こることで小孔の閉鎖(close gate)をもたらし、結果的に腫瘍血管のホメオスタシスをダイナミックに維持しているのではないかと考察された。

併用治療による治療効果改善現象、メカニズムの一端に腫瘍血管正常化が示唆

今回の研究成果により、現行のがん免疫治療にメトホルミンを併用することで治療効果が大幅に改善する、という現象のメカニズムの一端に腫瘍血管正常化があることを示唆している。異常な腫瘍血管を正常血管へと導く薬剤の開発が注目されているが、この目的が達成可能であることを改めて示唆するものだ。メトホルミンとIFNγの血管内皮細胞へ及ぼす相乗効果の詳細解明が期待されると同時に、糖尿病の合併症である血管異常に対してメトホルミンが予防策となる可能性も示唆している。糖尿病合併症の問題解決へ向けた突破口になる可能性も期待される、と研究グループは述べている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 甲状腺機能亢進症に未知の分子が関与する可能性、新治療の開発に期待-京大
  • 【インフル流行レベルマップ第50週】定点当たり報告数19.06、前週比+9-感染研
  • 胃がんの化学療法、個人ごとの効果予測が可能なAI開発に成功-理研ほか
  • 「社会的孤独」による動脈硬化と脂質代謝異常、オキシトシンで抑制の可能性-慶大ほか
  • 胎児期の水銀ばく露と子の神経発達に明らかな関連なし、エコチル調査で-熊本大ほか