抗体薬物複合体T-DXd、胃がん・乳がん以外のがんでの治療開発行われていない
国立がん研究センターは8月6日、リキッドバイオプシーによる大規模患者スクリーニングによって血液中の遊離DNA(cfDNA)にHER2遺伝子増幅が認められた固形がん患者を対象に、トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd:Trastuzumab deruxtecan)の有効性と安全性を探索する臓器横断的(バスケット型)医師主導治験のHERALD試験を実施したと発表した。この研究は、同センター東病院の吉野孝之副院長、中村能章消化管内科医員、愛知県がんセンターの谷口浩也薬物療法部医長らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Clinical Oncology」に掲載されている。
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HER2はがん細胞の増殖に関係するタンパク質の1つであり、その遺伝子の異常はさまざまながんで見られる。HER2の異常の頻度が比較的高い胃がん・乳がんでは、HER2を標的とする治療薬が診療で使われており、抗体薬物複合体T-DXdもその1つである。しかし、HER2遺伝子増幅のある他の固形がん(食道がん、婦人科がんなど)では、T-DXdの効果が期待されるものの、その患者の数が少ないため、企業主導による治療開発は行われていなかった。
cfDNAでHER2遺伝子増幅の固形がんの医師主導治験を臓器横断的に実施
また、従来はがんの組織を検査してHER2の診断を行い、HER2を標的とする治療を行うか判断していたが、HER2タンパク質の量は同じがん組織の中でもばらつきがあること(空間的不均質)やがんの治療経過の中で変化すること(時間的不均質)から、がんの組織を使ったHER2の検査で適切に診断が行われているのかという点が課題だった。
そこで、HER2のばらつきを克服するため、血液から抽出したcfDNAの解析(リキッドバイオプシー)で、HER2遺伝子増幅が確認されたさまざまな固形がんの患者に対して、T-DXdの効果と安全性を調べる臓器横断的(バスケット型)医師主導治験を実施した。
16種類のがん患者62人参加、13種類で有意ながんの縮小を認める
HERALD試験は、SCRUM-Japan GI-SCREENとLC-SCRUM-Japanが行っているGOZILA試験において、血液検査(Guardant360)でHER2遺伝子増幅が見つかったさまざまな固形がんの患者に対して、T-DXdの効果と安全性を調べる医師主導治験である。
日本国内の7つの医療機関から計62人・16種類のがん患者が参加した。主要評価項目である奏効割合は56.5%であり、期待していた効果を上回る結果だった。16種類のがんのうち、13種類(食道がん、大腸がん、唾液腺がん、子宮体がん、子宮頸がん、胆道がん、卵巣がん、小腸がん、尿路上皮がん、胃がん、悪性黒色腫、パジェット病、前立腺がん)で有意ながんの縮小が認められた。副次評価項目である(中央判定による)無増悪生存期間の中央値は5.7か月、全生存期間の中央値は14.6か月、奏効期間の中央値は7.3か月だった。
頻度の多かった副作用(カッコ内は発生頻度)は、悪心(58%)、食欲不振(53%)、倦怠感(40%)、貧血(39%)などだった。T-DXdの注意すべき副作用である間質性肺炎は16人(26%)に見られ、そのうち11人が間質性肺炎により治療を中止したが、死亡に至る重篤な間質性肺炎はなかった。
負担少なくさまざまな種類のがんで、治療効果期待できる患者を見つけられる可能性
今回の研究の結果、リキッドバイオプシーで得られたcfDNAを解析することで、HER2遺伝子増幅が認められる固形がんの患者に対してT-DXdが効果的であることがわかった。「従来はがん組織を使った検査でHER2を診断し、その結果に基づいてHER2を標的とする治療を行っていたが、患者の負担の少ないリキッドバイオプシーでもさまざまな種類のがんでT-DXdの効果が期待できる患者を見つけることができる可能性が示された」と、研究グループは述べている。
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・国立がん研究センター プレスリリース