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ヒト静脈奇形でPIK3CA/AKT/mTOR経路の活性確認、シロリムス治療根拠に-阪大ほか

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2024年08月14日 AM09:30

切除困難な症例多く、非侵襲的な治療法が切望されていた

大阪大学は3月7日、ヒト静脈奇形検体を用いて、静脈奇形の発症にかかわる原因遺伝子の違いにより臨床症状や顕微鏡像が異なること、原因遺伝子の種類にかかわらずPIK3CA(PI3K)/AKT/mTOR経路が活性化していることを見出したと発表した。この研究は、同大大学院歯学研究科の廣瀬勝俊助教、豊澤悟教授、大阪大学大学院医学系研究科の堀由美子招へい教員、森井英一教授、岐阜大学大学院医学系研究科の小関道夫准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Human Pathology」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

静脈奇形は、静脈の先天的な形態異常で、血管腫のなかでは最も発生頻度が高い病気である。頭頚部領域に好発し、放置しておくと出血や感染、疼痛を繰り返して、患者の生活の質QOLを低下させる。根治的治療法は外科的切除であるが、筋肉や神経を巻き込み、切除が困難な症例も多いことから、非侵襲的な治療法が切望されている。

シロリムス保険適応は決定済の一方、ヒト静脈奇形で実際に活性化しているかは不明

血管腫には、がんと同様に、DNA(遺伝子)の異常がその病気の発生に関わっていることが明らかとなっている。近年では、血管腫の新たな治療法として、遺伝子異常を標的としたがん治療に用いられる分子標的薬の転用が行われており、臨床試験が国内外で進行している。

静脈奇形ではTEK遺伝子またはPIK3CA遺伝子の異常が検出される。これまでの細胞実験の結果、両遺伝子の下流シグナルとして、/AKT/mTOR経路の活性化が病気の発生に関与していることが報告されている。また治療経験から、mTOR阻害薬のシロリムス(分子標的薬)が静脈奇形に対して治療効果があることがわかっている。日本では世界に先駆けて、小関教授の主導のもと、静脈奇形の初の治療薬としてシロリムスの臨床試験が行われ、保険適応されることが2024年1月に決定した。しかし、実際のヒト静脈奇形において、原因遺伝子がどのように静脈奇形の発症に関与しているか、またPIK3CA/AKT/mTOR経路が活性化しているかはわかっていない。

114症例を解析、原因遺伝子の種類にかかわらずPIK3CA/AKT/mTOR経路活性

研究グループは、世界最大数のヒト静脈奇形114症例を収集し、TEK遺伝子とPIK3CA遺伝子の異常とその役割について詳細に検討した。その結果、以下3点を発見した。まず、TEK遺伝子異常を有する静脈奇形は、10歳代以下の症例や体の表面に発生した症例が多いこと見出した。2点目として、TEK遺伝子異常を有する静脈奇形とPIK3CA遺伝子異常を有する静脈奇形では、RNAの発現やタンパク質の発現が異なっていることがわかった。さらに、静脈奇形では異常遺伝子の種類にかかわらず、正常血管と比較して、PIK3CA/AKT/mTOR経路が活性化していることも明らかにした。

、切除困難症例の新たな治療選択肢となることに期待

研究成果は、静脈奇形初の治療薬であるmTOR阻害薬シロリムスの治療根拠となり、切除が難しい症例の新たな治療選択肢となることが期待される。また、原因遺伝子によるRNAやタンパク質発現の違いは新たな治療薬開発へとつながる可能性がある。「原因遺伝子ごとの臨床症状や顕微鏡像の特徴を組み合わせることで、将来的に原因遺伝子ごとの治療薬開発がさらに進んだ際には、遺伝子検査が困難な施設においても適切な治療薬を選択できるようになることが期待される」と、研究グループは述べている。

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