診断困難な発達性・変性てんかん性運動障害性脳症を伴う患者の責任遺伝子や病態を解析
名古屋市立大学は8月5日、これまで診断が難しかった神経難病の疾患において、遺伝子解析と3次元培養モデルを組み合わせることで、新たな疾患メカニズムとその治療法開発の可能性を示したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科新生児・小児科学分野の中村勇治研究員、同細胞生化学分野の嶋田逸誠講師、同細胞生化学分野の加藤洋一教授、同新生児・小児科学分野の齋藤伸治教授、東京大学大学院医学研究科疾患生命工学センター健康環境医工学部門の村上誠教授、名古屋大学大学院医学研究科精神疾患病態解明学の尾崎紀夫特任教授、有岡祐子特任講師、広島大学大学院統合生命科学研究科情報生理学研究室・京都大学大学院医学研究科創薬医学講座の本田瑞季助教、熊本大学生命資源研究支援センター・京都大学大学院医学研究科創薬医学講座の沖真弥教授ら、慶應義塾大学、九州大学・理化学研究所、横浜市立大学、自治医科大学、宮城県立こども病院、University College Londonなどの研究グループによるもの。研究成果は、「Brain」に掲載されている。
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小児の希少疾患には、診断が難しいものが多くある。患者の全遺伝子解析を行っても、原因と考えられる遺伝子変異の発見は難しく、どの遺伝子が本当に重要なのか、脳にどのような影響を及ぼしているのかについては、解明が難しい。
今回、研究グループは、診断が難しかった発達性・変性てんかん性運動障害性脳症を伴う患者の遺伝子を解析して、iPS細胞から作成した3次元脳培養モデル(脳オルガノイドモデル)を利用して、責任遺伝子と疾患メカニズムを解明した。
「発達性・変性てんかん性運動障害性脳症」責任遺伝子PNPLA8を同定
研究グループは、12か国の国際共同研究で、PNPLA8遺伝子が、「発達性・変性てんかん性運動障害性脳症(DDEDEと命名)」の責任遺伝子であることを明らかにした。そしてこの疾患は、PNPLA8遺伝子の機能喪失の程度により軽症型から重症型へと変化し、重症型では脳のしわができず小頭症となること、軽症型では歩行困難などの症状を示すことを明らかにした。
リン脂質代謝異常が神経産生へ影響の可能性、脂質補い外側放射状グリア数が回復
また、PNPLA8を欠損したiPS細胞と患者由来のiPS細胞から脳オルガノイドを作製。その解析から、PNPLA8欠損脳オルガノイドでは、外側放射状グリアと呼ばれるヒト特異的神経幹細胞の数が減少し、神経産生が減少していることを明らかにした。これらの結果は、患者の脳のしわの形成や小頭症の症状を引き起こす原因である可能性を示唆する。
加えて、大規模遺伝子解析(光単離化学法)と大規模脂質解析(リピドミクス解析)を行い、リン脂質代謝の異常が神経産生へ影響を及ぼしている可能性を明らかにした。さらに、足りないリン脂質を補い、外側放射状グリアの数が回復できることを明らかにした。
遺伝子解析×3次元培養モデルで、新たな疾患メカニズムと治療法開発の可能性
今回の研究により、これまで診断が難しかった神経難病の疾患において、遺伝子解析と3次元培養モデルを組み合わせることで、新たな疾患メカニズムとその治療法開発の可能性が示された。今後は、さらなるメカニズムを明らかにし、さまざまな動物モデルと組み合わせることで、新たな治療法開発へと結びつける、と研究グループは述べている。
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・名古屋市立大学 プレスリリース