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原発性胆汁性胆管炎、日本人特有の関連遺伝子としてPTPN2同定-長崎大ほか

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2024年08月13日 AM09:30

中年女性に好発のPBC、肝移植以外に治療法がなく詳細な原因は未解明

長崎大学は8月5日、日本人の原発性胆汁性胆管炎()の患者を対象としたゲノムワイド関連解析(:genome-wide association study)から、PBCの発症に関わる日本人特有の遺伝子領域としてPTPN2を同定し、PTPN2の遺伝子発現量の低下がPBCの発症に関与することを世界で初めて明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医歯薬学総合研究科の中村稔教授(NHO長崎医療センター客員研究員、九州大学生体防御医学研究所学術研究者)、国立国際医療研究センター研究所疾患ゲノム研究部疾患ゲノム研究室長の人見祐基博士らの研究グループによるもの。研究成果は、「Hepatology」に掲載されている。

原発性胆汁性胆管炎(PBC)は、中年女性に好発する慢性の胆汁うっ滞性の肝疾患で、進行すると肝不全・黄疸が出現し、肝移植以外には治療法がない難病である。肝内の小型胆管が胆汁酸の毒性や自己免疫的機序によって破壊されることが主な原因と考えられているが、その詳細についてはいまだ明らかになっていない。疫学的調査から、PBCの発症には強い遺伝的要因が関与することが示唆されていた。

2005年頃より、疾患の発症に関わる遺伝子領域を網羅的に探索する方法としてGWASが利用可能となり、研究グループも2012年に日本人で初めてPBCの発症に関わる遺伝子領域(HLA、TNFSF15、POU2AF1)を同定した。その後も国内外のGWAS研究を継続し、2021年には欧米や中国との国際PBC-GWAS共同研究で約70か所の遺伝子領域を同定した。

日本人PBC患者2,181人を含むGWAS実施、PTPN2遺伝子の近傍に有意な関連を発見

今回、日本人の解析症例数を増やしてGWASを実施した。日本人PBC患者2,181例と健常人コントロール2,699例のDNA検体(計4,880検体)を対象として、全ゲノム中に存在する約580万か所の⼀塩基バリアントの遺伝子型を決定した。これらの⼀塩基バリアントについて、それぞれのアレルを保有する割合をPBC患者とコントロール群の間で網羅的に比較することにより、18番染色体に位置するPTPN2遺伝子の近傍がPBCの発症との統計学的に有意な関連を示すことを、世界で初めて示した。

発症リスクアレルによりPTPN2遺伝子の発現量低下、患者のIFNγシグナル抑制に影響

また、GWASで同定された遺伝子領域がどのようなメカニズムで疾患発症に関わっているかを解析(post-GWAS解析)し、PTPN2遺伝子のプロモーター領域に位置する⼀塩基バリアントである発症リスクアレル(rs2292758-T)が、PTPN2遺伝子の発現量を低下させること、即ち、rs2292758の発症リスクアレルを持つヒトにおいては、免疫担当細胞(樹状細胞)でのPTPN2発現量が低下していることや、ゲノムDNAのrs2292758の塩基配列を人為的に改変したゲノム編集細胞においても、発症リスクアレルがPTPN2遺伝子の発現量を低下させることを明らかにした。さらに、PBC患者の肝臓におけるIFNG遺伝子とPTPN2遺伝子の発現相関解析から、発症リスクアレルを持つ患者のPTPN2によるIFNγシグナルの抑制は、リスクアレルを持たない患者より弱いことも明らかとなった。

PBCの新たな治療法につながる可能性

このPBC発症リスクアレルは、日本人集団においては約3割の頻度で検出されるのに対して、欧米人集団ではほとんど検出されない。このことが、PTPN2が欧米人ではPBCとの関連を示さずに、日本人でPBCの疾患感受性遺伝子として初めて発見された原因と考えられた。「PTPN2によるIFNγシグナルのネガティブフィードバック機構の是正がPBCの新たな治療法となる可能性が示唆された」と、研究グループは述べている。

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