海外で進む経口避妊薬のOTC化、日本は処方箋が必要
大阪大学は8月1日、韓国でOTC医薬品を含む経口避妊薬(OC)を服用したことのある日本人女性にインタビュー調査を実施し、トランスナショナル(国境を越えた)な日本人が直面する医療機関での倫理的課題と健康管理のパターンを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科の大学院生のKANG SEONGEUN氏(博士課程)、加藤和人教授(医の倫理と公共政策学)によるもの。研究成果は、「Asian Bioethics Review」(オンライン)に掲載されている。
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医療・医薬品へのアクセスは国・地域によって異なり、グローバル化により国境を越えて医療を受ける患者が増えている。こうした国境を越えた医療選択には、金銭的、制度的、文化的、情緒的な要因が影響する。先行研究としては、医療観光、外国人や移住民の健康、トランスナショナルな代理母・代理出産が主要テーマとして取り上げてきた。
WHO(2019)の指針では、OCは当事者が処方箋なしで入手できるようにすべきと勧告されている。これまでは処方箋が必要だった国でも、患者や市民の関与によってOCのOTC化(英国)やOTC医薬品としての承認(米国)といった進展が見られる。韓国でも1968年以来、OTCでの入手が認められている。一方、日本ではOCはいまだ処方箋によってのみ入手可能となっている。
日本におけるOC研究は、日本国内での使用、避妊目的、産婦人科・女性医学の領域に限定されてきた。また、日本人女性がトランスナショナルヘルスを利用する際の経験や認識、背景を調べた研究はほとんどなかった。
韓国に6か月以上滞在し、OC服用経験がある日本人女性11人にインタビュー
研究では、韓国でOTC医薬品を含むOCを服用したことのある日本人女性の経験と認識に注目した。留学、仕事、結婚などにより中長期(6か月以上)韓国に滞在したことのある日本人女性11人に、現地でのOTC医薬品を含むOCの服薬経験と認識について調査する半構造化インタビューを実施し、テーマ分析を行った。その結果、3つのカテゴリーと8つのテーマが生成された。また、トランスナショナルヘルスという視点から、日本人女性のOCの入手と服用に関する新たな健康管理のパターンが特定された。
健康管理のパターンとしては6項目が特定された。具体的には、「帰国前に薬局でまとめ買いをして飲み続ける」「現地の家族や知人に国際郵便での郵送・帰国時に持参してもらう」「ECサイトを利用する」「病院に通う(従来型アクセス、Rx)」「服薬をあきらめる」「EC、OTC、Rx断薬・休薬の組合せのハイブリッド型で服薬し続ける」である。
国内医師が海外で入手したOCを危険視して一方的に注意、臨床現場に課題
研究グループは次のように考察した。まずは、「トランスナショナルな日本人患者と臨床現場での課題」である。日本人患者が帰国後に医療機関を受診する際、患者と医師の間でOCへの認識が異なり、これがジレンマを生んでいることがわかった。参加者は、現地の薬局で入手したOCについて、世界各国で同一の成分で多くの女性に普通に使われていると認識していた。一方、当時の医師は国内処方のOCしか認めず、海外で入手したOCについて危険視し、目の前の患者の健康面の悩みに対応せず、一方的に注意したという経験が聞かれた。このナラティブ(患者の語り)から「診療室での時間は、医師が患者の医療認識を判断するのではなく、患者の症状や病気の理解に基づいて治療を行い、健康を改善するために使われなければならない」との倫理的提言が生まれた。
OCへのアクセスに関わる課題、再診できる仕組みの要望なども明らかに
また、「トランスナショナルな健康管理の重要性」も考えられた。参加者のOCの入手や服薬に関する個々の経験や理解をグローバルな文脈で比較し評価。特に、若者や社会的弱者がOCを利用する状況に注目した。日本におけるOCへのアクセスの問題点や課題について、文化的背景や社会的影響を考慮して批判的に考察した。OCを初めて服用する人や病気・症状が不安な人は病院で診察を受け、慣れている人は薬局で入手できるようにし、気になることがあれば再診できる仕組みが望ましいという意見があった。
さらに、OCへのアクセスを改善するために、患者中心の医療と医薬品再分類の観点から今後のアクセスモデルについて検討した。まず、現在日本では産婦人科や内科でのみOCを処方しているが、他の科(精神科や皮膚科など)でも処方できるようにするモデルを提案する。また、医薬品再分類の観点について、要指導医薬品やおくすり手帳など、既存の枠組みや政策資源を活かし、健康情報の電子的な利活用を拡大することにより、OCの入手方法を多様化することも考えられた。
認識の差によるコミュニケーション上のジレンマ解消の一助となることに期待
今回の研究成果が、日本国内の臨床現場(主に、診療所)においてトランスナショナルな日本人患者に遭遇した時に発生しうる認識の差によるコミュニケーション上のジレンマを解消するための患者理解やその時の医療提供のあり方を考えるための一助となることが期待される。
「日本におけるOCを含む避妊薬や中絶薬などへの医療・医薬品アクセス、「望まない妊娠」や中絶、保健教育や社会的認識の改善を含むSRHR(性と生殖に関する健康と権利)課題解決の一助となり、女性疾患・症状のセルフケアなどQOL向上につながることも期待している」と、研究グループは述べている。
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・大阪大学 ResOU