ピロリ菌除菌済み・胃底腺型胃がんの周囲に多い「黒点」、臨床病理学的意義は?
浜松医科大学は8月1日、胃に出現する黒点に対してNanoSuit光電子相関顕微鏡法(NanoSuit-CLEM)にエネルギー分散型X線分光法(EDS)を組み合わせることで、黒点内部に鉄が沈着していることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大内科学第一講座の杉浦喜一医師(大学院生)、光医学総合研究所の河崎秀陽准教授、医学部附属病院検査部の岩泉守哉准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「DEN Open」に掲載されている。
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黒点は上部消化管内視鏡検査で認められるほくろ様の所見であり、胃カメラを施行された者の6.2%程度に認められる。Helicobacter pylori除菌治療を受けた患者や胃底腺型胃がんの周囲に多いという報告はある。しかし、臨床病理学的意義は詳しくわかっておらず、またその組成についても解明されていなかった。
NanoSuit-CLEMとEDSで詳細分析
NanoSuit技術は生体適合性高分子の水溶液を試料に塗布し、プラズマ照射を行うことでナノメートルレベルの厚さの保護膜を形成し、濡れたままの検体に対して迅速簡便で詳細な分析を可能にする。今回の研究は、黒点に対してNanoSuit-CLEMとEDSを組み合わせて元素分析を行いその成分を明らかにし、臨床病理学的意義に迫り、成因を明らかにすることを目的とした。
先行報告のピロリ除菌歴やPPI内服に加え、抗血栓薬使用・慢性腎不全もリスク因子と判明
浜松医科大学医学部附属病院で上部消化管内視鏡検査を施行した6,778人を解析し、482例(7.1%)に黒点を認めた。先行報告と同様にHelicobacter pylori除菌治療歴やプロトンポンプ阻害薬内服がリスク因子として挙げられた。加えて、抗血栓薬の使用や慢性腎不全も、新たなリスク因子として挙げられた。それに対してHelicobacter pyloriの現感染がある場合、黒点はほぼ認めなかった。
抗血栓薬の影響で腺管内出血、鉄濃度上昇で黒点出現と推察
黒点を認めた症例のうち、内視鏡生検検体や手術検体の病理組織内に黒点を認めた症例は11例。NanoSuit-CLEMにEDSを用いて解析した。黒点の成分が全く予想できない中で、予期せず11例全例において黒点内部に特異的に鉄の沈着が認められ、黒点の見られない腺管や正常粘膜には鉄は認められなかった。
プロトンポンプ阻害薬使用や慢性腎不全などにより血中ガストリン濃度が上昇し、胃腺管の拡張をきたすと考えられる。そして拡張した腺管内に胃液が長期間留まる他、抗血栓薬の影響で腺管内に出血を来すことで鉄濃度が上昇し、黒点が出現したことが推察される。また、Helicobacter pylori 除菌治療歴のある者では胃内に黒点が認められるのに対し、Helicobacter pylori現感染の者では黒点がほとんど認められないということも、確認した。「“胃の黒点には鉄の沈着”という今回の発見から、さらに胃疾患の病態に迫り、臨床検査の開発へとつながることが期待される」と、研究グループは述べている。
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