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心血管疾患、上腕脈波波形+心音で高精度・簡便にリスク評価する方法開発-産総研ほか

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2024年08月09日 AM09:20

baPWV・CAVIによる動脈硬化の測定、近位大動脈のスティフネス評価は不十分

(産総研)は8月1日、(pulse wave velocity:PWV、以下記述のbaPWV、、CAVIもPWVに分類される)法を用いた近位大動脈(心臓近位部の大動脈)硬化度の簡易計測技術を開発したと発表した。この研究は、産総研人間情報インタラクション研究部門の菅原順研究グループ長、東京医科大学循環器内科学分野の冨山博史教授、山科章主任教授(研究当時)、米国テキサス大学オースティン校の田中弘文教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Hypertension Research」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

CVDは、国内における主な死亡原因の一つであり、要介護原因だが、その発症リスクとして動脈硬化がある。動脈硬化の度合いの指標として、動脈壁の硬さを示す動脈スティフネスが注目されている。動脈は伸展性に富み、心臓から駆出される血流を緩衝するクッションの役割を果たす。しかし加齢に伴い伸展性は失われ、クッション作用が減弱してくると、慢性的に心臓に負担が加わり、CVDのリスクになる。動脈スティフネスは加齢とともに増大するため、動脈スティフネス計測による早期からのリスク検出が重要と考えられる。

動脈内を伝わる脈波の速さを用いた「」は、心臓から血液が送り出されることにより発生した脈波が離れた2点間を通過する時間と、その間の距離(動脈長)と伝わる時間から速度を算出、この速度が速いほど動脈スティフネスは高いと評価する方法で、最も信頼性の高い動脈スティフネス評価法として世界的に認知されている。しかし、熟練した測定技術を要することから、多くの国々では、臨床現場での普及はあまり進んでいなかった。日本では、上腕と足首に血圧測定カフを巻いて脈波伝播速度を計測するbaPWVならびに心臓足首血管指数(CAVI)の計測装置が開発され、世界に先駆けて20年ほど前から動脈硬化の測定の一般臨床医療への導入を実現した。ただし、baPWVやCAVIでは心臓への負担軽減に最も寄与すると考えられる「心臓付近の動脈()」のスティフネスを十分には評価できないという課題がある。

開発したhbPWV評価法、近位大動脈スティフネスを反映

現在、近位大動脈の機能を非侵襲的に評価する方法はMRI以外にはない。しかし、CVD発症を予防するためには、簡便かつ高精度に近位大動脈スティフネスを評価することが求められる。この課題に対し、産総研とテキサス大学はPWV法による近位大動脈スティフネス評価法の開発を進めてきた。研究グループは、心音と上腕脈波波形の同時計測で算出し、上腕の動脈スティフネスの指標と考えられてきたhbPWVに注目した。実測が難しく、従来の身長のみを使用した推定式の妥当性が課題であった動脈長を性別や身長などから推定する式を開発し、次いで、この推定式を使用して得たhbPWVが近位大動脈スティフネスを反映し、CVDの発症と強く関連する大動脈の血圧と強い関係にあることを明らかにした。

今回はこの研究をさらに発展させ、CVDの発症予防におけるhbPWVの有用性をより明確にすることを目的とした。企業健診の追跡データを用いて、hbPWVの加齢変化特性ならびに、CVDリスクとの関連性について、国内の臨床検査で広く使用されているbaPWVと比較・検討した。

hbPWVはbaPWVより年齢と強く相関、評価される動脈スティフネスは30歳代から一貫して増大

研究グループは、10年以上の企業健診追跡データを用い、hbPWVと年齢ならびにCVDリスク(フラミンガム一般的CVDリスクスコアにより評価)との関連性を、横断研究(対象者7,868人)と追跡研究(対象者3,710人、平均追跡期間9.1±2.0年)により評価した。年齢との関連性に関しては、横断研究、追跡研究とも、hbPWVがbaPWVよりも強い相関関係を示した。

一人ひとりの直線の傾きから加齢に伴うPWVの増加量を調べると、baPWVの増加量は高齢になるほど大きい、すなわち加齢に伴いスティフネスの増大が急峻になるという、先行研究や今回の研究の横断研究と同様の傾向を示した。これに対し、hbPWVの増加量は年齢群の間に有意差を示さなかった。このことは、hbPWVによって評価される動脈スティフネスは30歳代から一貫して増大し続けることを示している。

CVDリスクスコアについても有意に強い相関関係示す

CVDリスクとの関連性についても、横断研究、追跡研究とも、hbPWVはbaPWVよりもフラミンガム一般的CVDリスクスコアと有意に強い相関関係を示した。さらにROC曲線分析の結果、hbPWVがbaPWVよりもCVDリスクの有無を判別する能力が有意に高いことが示された。

hbPWVを計測するためのアルゴリズム、家庭用血圧計にも搭載できる可能性

hbPWVが成人期早期から加齢とともに直線的に増加し始め、CVDリスクと強い関連性を示すという結果は、hbPWVがCVDリスク早期発見の有望な指標であることを示唆している。また、hbPWVはbaPWVと異なる部位の動脈のスティフネスを評価しているため、両指標を評価することで、加齢に伴う動脈スティフネスの増大が引き金となって起きる腎臓病や閉塞性動脈疾患などのさまざまな疾患リスクを多面的に評価できる可能性がある。

このhbPWVを計測するためのアルゴリズムは、スポットアーム式の血圧計、さらには家庭用血圧計にも搭載できるポテンシャルを有する。これが実現することで動脈硬化度指標を計測する機会が増え、心血管系疾患リスクを早期に発見できる機会をより増やすことが期待できる。

今後の予定として、「baPWVの測定機器を販売している企業と共同研究を行い、hbPWVの算出アルゴリズムを搭載した測定機器の開発を進めるとともに、予防医学・臨床医学的側面からの研究開発を実施する」と、研究グループは述べている。

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